『鍵盤に指を置くとき トゥレットは僕の個性』YUSK(ユウスケ)著(アルファベータブックス)

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鍵盤に指を置くとき

『鍵盤に指を置くとき』

著者
YUSK(ユウスケ) [著]
出版社
アルファベータブックス
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784865981063
発売日
2023/05/08
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『鍵盤に指を置くとき トゥレットは僕の個性』YUSK(ユウスケ)著(アルファベータブックス)

[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)

 歌を歌おうとすれば首に力が入り、声が詰まってうまく出せない。十年以上前からそうした症状に悩まされながら、騙(だま)し騙し音楽活動をしている。何か良い情報はないか調べたり、ボイストレーニングや治療を受けたり、症状を改善する為(ため)にあらゆる努力をしてきた。それなのに、本書を読んで初めてトゥレット症候群のことを知った。自分の意識で体を制御できず、運動チックと音声チックが同時に表れるのが特徴だ。ピアニストである著者は長年この症状に苦しんできた。しかし、ピアノの前に座り鍵盤(けんばん)に指を置いた時にだけ、ピタリと症状が止(や)むという。様々な比喩を使い、その感覚を読者に伝えようとする著者の気持ちが痛いほど伝わってくる。そして、トゥレットは、知れば知るほど面白い。症状に振り回される著者の葛藤を通して、感情が大きく動く。病気を面白がるなんて失礼なのかもしれないけれど、知らないよりは絶対にマシだ。どんな不謹慎も責任を持って面白がれる。読むという行為には、そんな不思議な力がある。だからこそ、読んでトゥレットを知って欲しい。

読売新聞
2023年6月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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