『コミュ力は「副詞」で決まる』石黒圭著(光文社新書)

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コミュ力は「副詞」で決まる

『コミュ力は「副詞」で決まる』

著者
石黒圭 [著]
出版社
光文社
ジャンル
語学/語学総記
ISBN
9784334046606
発売日
2023/04/19
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『コミュ力は「副詞」で決まる』石黒圭著(光文社新書)

[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)

不遇な品詞 実は主役級

 名詞、動詞、形容詞はなんとなく分かるという人でも、「副詞」と聞いてピンと来る人は少ないのではないだろうか。副詞は主に動詞や形容詞を修飾する言葉のカテゴリーで、「ゆっくり」「とても」「ぜんぜん」などを含む膨大な数の表現がそこに入る。しかしその実体はかなりぼんやりしているし、文が成立するのに絶対に必要な要素というわけでもない。そもそも副詞という名前からしていかにも添え物っぽく、「品詞のゴミ箱」などと揶揄(やゆ)されることもある。

 著者はこの不遇の品詞にスポットライトを当て、これが私たちのコミュニケーションにおいていかに重要な役割を担っているかを縦横無尽に説く。私自身、言語学徒として副詞のことを分かっているつもりでいたが、本書を読んで、自分が副詞の真価を認めていなかったことを思い知らされた。副詞はゴミ箱なんかではなく、“影の首領(ドン)”だった。

 まず、副詞を「文に必須の要素ではないから重要ではない」と考えること自体が大間違いだ。必須の要素でないからこそ、わざわざ使うことで話し手の主観や感情が伝わる。「あなたは私の気持ちを、ちっともわかってくれない」という文から副詞「ちっとも」を抜いても文としては成立するが、期待を裏切られたという強い感情は伝わらない。また、「最低でも、△△大学は受かりたいな」とうっかり口にしようものなら、△△大学を軽視していることがばれてしまう。「最低でも」が隠れた先入観を伝えるからだ。

 漫画や文学作品に出てくる言い回し、政治家の失言、スポーツ選手のインタビューなど、私たちになじみの深い実例が数多く取り上げられており、「こんなところにも副詞が!」と驚くこと請け合いだ。データに基づく調査から見えてくる副詞利用の実態も面白い。たとえば、日本語の歌詞に出てくる副詞ランキングは、第三位が「きっと」で、第二位が「また」。栄えある第一位については、ぜひ本書を読んで確認してほしい。

読売新聞
2023年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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