『特攻服少女と1825日』
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かつて地方の夜の国道沿いで花開いたストリート・カルチャー
[レビュアー] 都築響一(編集者)
いま暴走族が絶滅危惧種だとすれば、十代の女の子だけで結成されていた「レディース」は完全なる絶滅種だ。1989年に創刊されたレディース専門誌『ティーンズロード』の生みの親、伝説的な編集者である比嘉健二さんの新刊『特攻服を着た少女と1825日』が小学館ノンフィクション大賞を受賞したと聞き、胸に迫るものがあった。
世がバブル全盛期から弾けてフラフラだったころ。東京芝浦ではジュリアナのお立ち台で女の子たちがパンツを見せて踊っていたときに、地方の夜の国道沿いでこんなストリート・カルチャーが花開いていたことを、僕らはもうほとんど忘れてしまっている。社会のシステムから、学校から、家庭からも弾き出された子どもたちが、どうやってロードサイドに居場所を見つけたのか。
出版界の意識高い系にはまったく無視されながら『GON!』『ナックルズ』など数々のヒット雑誌で比嘉さんが伝えてきたのは、いつも弾き出された子どもたち、多数決で負けるオトナたちへのメッセージだったし、それを決して上から目線ではなく、常に下から目線で語ってくれてきた。
かつて十代にしてチームの総長に上りつめた子たちがいまオトナになって、DVや貧困や薬物問題で行き場をなくした少女たちをサポートする組織をつくって活動している。栃木の「貴族院女族」2代目総長を務めたかおりさんの自伝『「いつ死んでもいい」本気で思ってた…』も、奇しくも本書と同日発売になった。
歌舞伎町に立ってからだを売る子、温かい朝食を食べたことのない子、父親から強姦された子、捨てられた子……こんな国になってしまったいまの日本で、大多数の人間にとって1ミリの興味もない暴走族の物語をリアルに受け止めはじめたひとたちがいることの意味を、どうしたらわかってもらえるだろうか。