『現代ドイツ政治外交史』
- 著者
- 板橋 拓己 [編集]/妹尾 哲志 [編集]
- 出版社
- ミネルヴァ書房
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784623094868
- 発売日
- 2023/06/16
- 価格
- 3,850円(税込)
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『現代ドイツ政治外交史 占領期からメルケル政権まで』板橋拓己/妹尾哲志編著(ミネルヴァ書房)
[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大准教授)
戦後8首相の視点 明快に
ロシアのウクライナ侵略で対応に腰が引けていると非難されたかと思えば、一転、ウクライナに対する戦車供与では先頭に立ったドイツ。この辺りの極端さをどう理解してよいものかと思い、本書を手にとった。結論は「当たり」である。
ドイツの専門家ではない一読者としてまずありがたいのは、本書のとっつきやすさ。アデナウアーからメルケルに至る戦後8人のドイツ連邦首相を「主人公」として、政治家列伝的体裁が取られている。ドイツの戦後史は彼らの政治家人生を通じて語られ、そうであるが故に多面的で生々しい。
なにしろ時代ごとの視点は一人の最高権力者に固定されているので、核兵器も選挙もナチスの負の遺産も全て視野に入ってくる。特定のイシューに特化した視点からの歴史叙述はその背景に通暁した専門家でないと読み解きにくいが、この方法で見ていくと「当事者感」のようなものが出てきて実感が持ちやすかった。このことはまた、政治学界隈(かいわい)でよく言われる「内政と外交の連動性」を本書が非常にうまく取り扱っているとの評価にも繋(つな)がるだろう。
中でも「読ませる」と感じたのは、シュミットからコールへと至る1970~90年代の記述である。冷戦の激化や同盟内の軋轢(あつれき)に悩まされながらも現実的な国防政策を追求したシュミット。そして一見、野暮(やぼ)ったいようでいながらドイツの統一という歴史的事件の当事者となるコール。この辺りの展開は実に「キャラが立って」おり、政治小説のようにして楽しんだ。続くシュレーダーの食えなさと、現在に至る影響力の大きさもまた然(しか)り。
東ドイツ側の事情に一章を割いたことも見逃せない。「鉄のカーテン」の向こう側は決して無味乾燥な独裁体制だったわけではなく、こちらにはこちらなりの「戦後ドイツ」があった。この視点を導入することで、本書全体に立体感が出たように思われる。
「戦後ドイツ的論理」が頭にインストールされるような、優れた入門書を読んだとき特有の読後感が残る一冊であった。