奇想が鮮やかな結末に?SFとミステリ二刀流作家の短編集

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奇想が鮮やかな結末に?SFとミステリ二刀流作家の短編集

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 ミステリ読者からもSF読者からも愛される作家と言えば、フレドリック・ブラウンが筆頭だろう。彼のSF短編群は、現在、《フレドリック・ブラウンSF短編全集》全四巻にまとめられているが、ミステリにはまだまだ書籍未収録作がある。

 この9月に出た『死の10パーセント』(越前敏弥他訳)は、『短編ミステリの二百年』の小森収が腕によりをかけて選び抜いた、ブラウンの短編ミステリ傑作選。全13編のうち、本邦初訳が3編もあるうえ、10編は著者短編集初収録。エド・ハンターものの2編はじめ、いまも瑞々しく楽しく読める作品が揃う。

 表題作は“悪魔との契約”もののバリエーション。闇のエージェントと契約した売れない俳優がスターへの階段を駆け上がるが……。バンドから足を洗って中古車販売を始めた男が事件に巻き込まれる「殺意のジャズソング」は、結末の鮮やかなひねりが素晴らしい。ウィリアム・F・ノーランが一枚の写真からブラウンの懐かしい思い出を語るエッセイのオマケつき。

 SFとミステリを股にかけた作家の短編集は他にもたくさんある。デイヴィッド・イーリイ『タイムアウト』(白須清美訳、河出文庫)は、MWA最優秀短編賞に輝く「ヨットクラブ」を筆頭に、「夜の客」「隣人たち」「理想の学校」など、ミステリ読者にはつとに知られた名作が並ぶ第一短編集。往年の筒井康隆を思わせる「面接」や、コロニアル・マジックリアリズムが炸裂する「ペルーのドリー・マディソン」など、ジャンルの枠に収まらない奇天烈な作品もいくつか。とりわけ、表題作の奇想には唖然とするしかない。

 対する『どんがらがん』(浅倉久志他訳、河出文庫)は、奇才・殊能将之が精選したアヴラム・デイヴィッドスンの全16編を収める傑作選。ヒューゴー賞や世界幻想文学大賞の受賞作のほか、MWA賞の「ラホール駐屯地での出来事」や、《EQMM》年次コンテスト第一席の「物は証言できない」など、ミステリも絶品。中でも、「すべての根っこに宿る力」は呪術系本格ミステリの大怪作。必読です。

新潮社 週刊新潮
2023年11月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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