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原作はさらにすごい。その最大の驚きは映画的クライマックスのあとに
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
マーティン・スコセッシ監督の映画を観て、原作の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(デイヴィッド・グラン、倉田真木訳)のことを知り、飛びつくようにして読んだ。映画も重厚なつくりで圧倒されるが、原作はさらにすごい。
映画も本も、一九二〇年代のアメリカで起きたオセージ族連続殺人事件の謎に迫る。先住民のオセージ族はもともと「何ひとつ所有せず、何者にも所有されなかった」と言われた人たちだ。合衆国政府によりもといた場所から無理やり押し込められた土地に石油が出て、その結果、欲にかられた悪漢に命を狙われる。
映画ではディカプリオとデ・ニーロが演じていることもあり、甥とおじ、甥とオセージ族の妻との関係に焦点が当たっているが、本の方は捜査官のホワイトや上司のフーヴァーにも紙数が割かれ、この事件がFBIという、近代的捜査機関の誕生に利用されたことがわかる。
そして最大の驚きは殺人事件が解決を見る、映画的クライマックスのあとに訪れる。著者は、徹底的な調査で、この事件が特別ではなく社会を構成するほぼすべての集団が殺人システムに加担していたという歴史の暗部を探り当ててしまう。数年前に『大草原の小さな家』の作者ワイルダーの名前を冠した文学賞の賞名が変更されたのも、この本の影響があったという。
相模原の障害者施設殺傷事件を題材にした辺見庸『月』(角川文庫)は、もの言わぬ人の思念をつづった小説をどう映像化するのだろう? という興味から映画を観た。
小説では事件を起こす職員ではなく、入所者で、見えず話せず身動きできない「きーちゃん」が主な語り手になる。映画は語りえない者に語らせる小説家の意図ごと取り込み、正面から原作に挑んだ。
山田太一の名作『異人たちとの夏』(新潮文庫)が、現代のロンドンを舞台にした映画『異人たち』(アンドリュー・ヘイ監督)として、来春公開される。十二歳で死別した両親との再会という、これもまた「見えないものを見せる」作品だ。