多様な文体の操り手による多層的なSFファンタジー スタージョンの作品世界

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多様な文体の操り手による多層的なSFファンタジー スタージョンの作品世界

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 SFに苦手意識がある方に、おすすめしたい作家がシオドア・スタージョン。というのも、スタージョンはSFの用語をほとんど使わない、作品世界それぞれにマッチした多様な文体の操り手だからです。しかも、センス・オブ・ワンダーをもたらす突飛な想像力をもとにしながらも、描き出されるのは人間の人間たる営為や心理。なので、あまりSFを意識せず楽しむことができるんです。

 たとえば新訳復刊された『夢みる宝石』(川野太郎訳)。主人公はもうすぐ9歳になる孤児の少年ホーティーで、物語は冷酷な養い親の家から逃げ出した彼が、見世物で巡業するカーニバルに拾ってもらうシークエンスから始まります。女の子の格好をして、美しき小人ジーナの従妹キドーとして仲間に加わるホーティー。物語の前半は、自分の居場所を見つけたホーティーとジーナたち団員との友愛が描かれていくのですが、そこに立ちふさがるのが団長のモネートルです。

 元医者で人類に対する憎しみをたぎらせているモネートルは、ある特殊な宝石の力を借りて復讐を遂げようと考えているのですが、ホーティーが孤児院にいた時から大事にしているびっくり箱のジャンキーの目にはまっている2つの宝石に目をつけるんです。もう21歳になっているのに9歳のまま成長を止めてしまったホーティーに、モネートルから逃げて本来の自分になるよう説得するジーナ。

 ここからの後半戦は疾風怒濤の読み心地です。モネートルが発見した宝石の真価とはいかなるものなのか。ホーティーはどうして自分の姿をコントロールできるような異能の持ち主なのか。さまざまな謎がいろんな感情を引き連れて物語終盤へとなだれこんでいく。カーニバル小説であり、復讐譚であり、愛の物語でもあるSFファンタジーなのです。

 スタージョンのそういった多層的な魅力に触れられるのが、河出文庫から出ている短篇集『海を失った男』(若島正編)と『輝く断片』(大森望編)。目利きの訳者による、選りすぐりの作品ばかり16篇が読める御膳上等な2冊なのです。

新潮社 週刊新潮
2023年12月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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