『カフカ素描集』フランツ・カフカ著/アンドレアス・キルヒャー編

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カフカ素描集

『カフカ素描集』

著者
フランツ・カフカ [著]/アンドレアス・キルヒャー [編集]/パーヴェル・シュミット [解説]/ジュディス・バトラー [解説]/高橋文子 [訳]/清水知子 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784622096061
発売日
2023/10/18
価格
14,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『カフカ素描集』フランツ・カフカ著/アンドレアス・キルヒャー編

[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)

 カフカと言えば呻吟(しんぎん)しつつ書く人というイメージが強い。ユダヤ教の偶像禁止の戒律とも相俟(あいま)って、画像とは縁遠い作家だと思われがちだ。ところがカフカは「描く人」でもあった! 遺品をめぐる訴訟を経て、これまでわずかしか公開されていなかった素描が本書に集められ、「画家カフカ」が全貌(ぜんぼう)を現した。カフカのイメージが変わること必至である。カフカ文学の伝道者マックス・ブロートがまず注目したのがカフカの文章ではなく絵だったというエピソードも驚きだ。

 描くことはカフカにとって、書くことと隣り合わせだったようだ。小説や手紙を書く手の動きが緩やかになると、その手は紙片の隅や文字の間に肖像や模様をスケッチし始める。小説との関係をことさらに推測すべきではないだろうが、しかしそれでも、素描される身体はユーモラスで愛らしく、その手足の動きから、『断食芸人』や『審判』などに描かれた人物たちのちょっとしたしぐさを思い出さずにはいられない。高橋文子、清水知子訳。(みすず書房、1万4300円)

読売新聞
2023年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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