『せいきの大問題』
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【話題の本】『せいきの大問題 新股間若衆』木下直之著
[レビュアー] 黒沢綾子
■目を背けてはならない!?
男性の裸体彫刻-とりわけ曖昧模糊(もこ)とした股間の表現に目を向け話題になった奇書『股間若衆』刊行から5年。やはりというか、続編は『新股間若衆』だ。ダジャレを炸裂(さくれつ)させる著者は東大大学院教授。全国各地の駅前や公園などに立つ若衆(男性像)の股間観察も、立派な研究である。
今回は男性像に限らず、日本美術が「下半身」をどう扱ってきたか、「わいせつか芸術か」という議論はいかに生まれたのかなど、幅広く「せいきの問題」を解き明かしている。パリ留学から戻った黒田清輝の裸体画に対し、描かれた下半身を布で覆った「腰巻(こしまき)事件」がその端緒という。
今、黒田の裸体画をわいせつだと断じる人はほぼいないだろう。明治維新を経て厳しく取り締まられた春画も、近年は美術館で展示されるまでになった。
自らの性器をモチーフにした作品をめぐる裁判、いわゆる「ろくでなし子裁判」に対し著者が一昨年、東京地裁に提出した意見書も収録。著者の指摘通り「わいせつか芸術か」は普遍的で自明な物差しにはなり得ず、不毛な議論だ。ただ、性表現について考察する機運は高まっている。股間から目を背けてはならない。(新潮社・1800円+税)
黒沢綾子