『ポスト・ディストピア論』
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<書評>『ポスト・ディストピア論 逃げ場なき現実を超える想像力』円堂都司昭(としあき) 著
[レビュアー] 石堂藍(ファンタジー評論家)
◆閉塞状況打開への道筋
ディストピア(反理想郷)ものをめぐる評論集。著者はエクソダス(集団的脱出)をキイワードにしたと述べ、ディストピアからの解放戦略を焦点に論じている。
扱う作品は『白の闇』『すずめの戸締まり』『地球にちりばめられて』ほか多数に上る。近未来SFや改変歴史ものからファンタジイまでジャンルは多彩で、メディアも小説のほか、音楽・映画・漫画など幅広い。どの物語も興味深いが、多くに共通しているのは「閉塞的な現代」の寓話(ぐうわ)であるということ。そして、たいていディストピアは打ち壊せず、エクソダスはかなわないが、何らかの可能性や希望を見出(みいだ)して終わる。例えばしがらみを断つことで、あるいは深く自分を見つめることで、あるいは書き続けることで。
冒頭部では『風の谷のナウシカ』が詳しく論じられる。心が折れそうな状況でナウシカが発する「生きねば」という重いつぶやき。これ以上に説得力のある生の指針はないかもしれないが、今の現実に対応する具体的な道筋はいろいろある。その思いを各作から抽出した1冊だ。
(青土社・2640円)
1963年生まれ。文芸・音楽評論家。
◆もう一冊
『戦後サブカル年代記 日本人が愛した「終末」と「再生」』円堂都司昭著(青土社)