【聞きたい。】堀越希実子さん 『團十郎が食べてきたもの 成田屋の食卓』
[文] 産経新聞社
■役者魂に感化され腕上げる
歌舞伎俳優の市川海老蔵さんが、ブログで母・堀越希実子さんの手料理について、「確かにうまい。料理屋さん出せばいいのにと本当おもってる」と称賛した成田屋(市川團十郎家の屋号)の定番レシピをまとめた。だが単なる料理本ではない。家族で囲んできた一皿を通じ、筆者が梨園(りえん)に嫁ぎ、“成田屋の女房”として過ごした40年を振り返るエッセーでもあるのだ。
「主人(3年前に亡くなった市川團十郎さん)と過ごした日々や料理を伝えたかった。成田屋の味は、主人と私が作り上げた味。手の込んだものではないですし、(海老蔵夫人の小林)麻央ちゃんがこれを工夫してくれたら、という思いを込めました」
カラーページを彩るのは、暮れの年越しそばに始まる、季節感あふれる料理だ。元旦に集う一門のため取り寄せる豪華なおせち料理もあるが、大半は愛情あふれる家庭料理。團十郎さんの大好物だったというまぐろ料理では、名前が刻まれた左利きの専用包丁の写真も登場。まぐろ1匹をさばいた、魚好きの團十郎さんの素顔が語られる。時には、朝食からステーキを用意する、役者の家ならではの配慮も。
「『勧進帳』に出演する月は、お肉を出すと主人は『元気が出る』って言っていました。月25日出演しますから、私も役や出演時間も考えてお料理しました」
実は結婚当初、料理は得意ではなかったと笑う。しかし役作りで工夫を重ねる役者魂に感化され、料理の腕が上がった。レシピを読むと、ポテトサラダのジャガイモをゆでる際、コンソメを加えるなど、一手間かけていることが分かる。
「外食したとき作り方を聞いたり、盛りつけも参考にしました」
引き継ぐ立場の麻央さんは、得意の野菜料理で新たな成田屋の味を作っているという。「麻央ちゃんがこの本を読んで、『料理を作りたい』と言ってくれました。早く味わわせてほしいですね」(世界文化社・1600円+税)
飯塚友子
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【プロフィル】堀越希実子
ほりこし・きみこ 昭和27年、東京都生まれ。学習院大仏文科卒業後の昭和51年、十二代目市川團十郎さんと結婚。