大澤真幸は『サピエンス全史』の読後に人類の幸せとは何か、未来の私たちは何者たりうるかを考えた

レビュー

4
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サピエンス全史(上)

『サピエンス全史(上)』

著者
ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/柴田 裕之 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784309226712
発売日
2016/09/09
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

サピエンス全史(下)

『サピエンス全史(下)』

著者
ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/柴田 裕之 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784309226729
発売日
2016/09/09
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

大澤真幸は『サピエンス全史』の読後に人類の幸せとは何か、未来の私たちは何者たりうるかを考えた

[レビュアー] 大澤真幸(社会学者)

大澤真幸
大澤真幸

 人間、つまりホモ・サピエンスの個体は、現在、地球上に約70億いる。その総重量は3億トン。他の大型野生動物の総重量の三倍を超える。人類は、地球を征服した。人類は、サピエンスは、いかにしてかくも繁栄したのか。本書は、ひとりの歴史学者が、この問題に与えた回答である。
 20万年前にアフリカの一隅に登場したとき、サピエンスは取るに足りない動物だった。そのサピエンスが地球の覇者になるまでには、本書によれば、四つの画期があった。
 第一の画期は、七万年前の認知革命。この時期、サピエンスは、今日の最高の芸術家に匹敵する水準の凝ったデザインの道具を作ったり、絵を描いたりし始める。想像力に爆発的な進化があったようだ。サピエンスは、虚構(架空の事物)を語る能力を獲得したのだ。人間は、それを通じて、つまり神話や宗教やイデオロギーを通じて団結し、協力することができるようになった。
 第二の画期は、約一万年前に始まった農業革命。農耕によって、単位面積あたりに暮らせる人口が急増するが、個人の生活は、狩猟採集民よりもむしろ惨めなものになっているという指摘は興味深い。
 第三のポイントは、農業革命を起点に始まった、長期にわたる(人類規模を目指す)統合への歩み。大づかみに歴史を見たとき、そこには、方向性があるか。ある。サピエンスの社会は、明らかに拡大し、全体として統一へと向かっているのだ。その推進力になった普遍的媒体が三つあった、と本書は説く。帝国と宗教、そして何より貨幣。
 進化は、サピエンスに、他の社会的動物と同様に「私たち」と「彼ら」を分け、後者を嫌う傾向を植え付けた。が、同時に、「彼ら」を含む「類」の普遍的な連帯をも望むのが、サピエンスの奇妙なところだ。
 第四の画期だけは、人類全体ではなく特定の文明が推進者になった。それは、五百年ほど前に始まる科学革命であり、主たる推進者は西洋。普通、われわれは科学革命によって知識が増えた、ということに注目する。しかし、本書の鋭いところは、無知の自覚(われわれはすべてを知っているわけではない)こそが、科学革命を可能にしたという指摘だ。それ以前の賢者や宗教者は、知られるべきことはすでにすべて知られている、ということを前提にしていた。16世紀頃から、科学は、帝国主義と資本主義との間に、ポジティヴなフィードバック・ループを形成し、歴史の原動力となった。
 なんとスケールの大きな歴史描写であろう。本書は、「なぜ」という疑問には、完全には答えてはいない。しかし、「いかにして」という問いには、急所がどこかを正確に指示しているように思える。
 最後に、本書は、最も大事なのに、歴史学者が無視してきた疑問をあえて提起する。結局、私たちは以前より幸せになったのか。そして不気味な予言をもって、本書は閉じられる。人類は近い将来、人類を超える人類、超サピエンスをデザインし、制作することになるかもしれぬ、と。このとき、われわれとは、人類(サピエンス)とは何者なのか?

太田出版 ケトル
vol.34 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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