西川貴教・インタビュー 恥ずかしい、面倒くさいを乗り越えて、物語の主人公に〈『おしゃべりな筋肉』刊行記念〉

インタビュー

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おしゃべりな筋肉

『おしゃべりな筋肉』

著者
西川 貴教 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103509912
発売日
2017/05/12
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

恥ずかしい、面倒くさいを乗り越えて、物語の主人公に


撮影:秦淳司

――過去に写真集やアーティストブックは発売されていますが、このような形式の本は今回が初めてだったんですね。書籍になるまでを振り返ってみて、いかがでしたか?

 インタビューで過去を振り返ることやSNSでその時の気持ちを書くことはあっても、書籍で自分の思考や物事の捉え方を分析したり説明したりすることはなかったですね。文章にするのは気恥ずかしかったというか……。でも今回、デビュー20周年の活動を行いながら、自分自身何を大切にしてきたのか、どうありたいのか、この先どうしていくべきなのかを改めて考えるいい機会にもなったので、やらせていただいてよかったと思いました。自分より年下の世代の方、同世代、年上の方にどう感じてもらえるのかな? というのは気になります。

――T.M.Revolutionとしてデビューする前後、なかなかうまくいかずにもがいていた20代の数年間についても書かれています。どの出来事をどう書くかは難しかったですか?

 僕はこんな苦労をしてきたんです!と伝えたいわけではないですからね。「もう明日がない」と焦りながらも夢は持っていたので、全体的には前向きな話としてまとめられたと思います。今うまくいっていないと感じている若い方など、ご自身に置き換えて読んでもらえたらうれしいです。

――ミュージカルやドラマなど、音楽以外の仕事場で冷や汗をかいたり恥をかいたエピソードも印象的でした。

 恥ずかしい思いや面倒くさいことってできればしたくないものだけど、それを越えないと得られないものがある。若いころはもちろん、今の自分にとってもそれが大事なんだなと感じています。タイトルにも使った“筋肉”で言うと、もともとトレーニングを始めたのはツアー中に倒れたことがきっかけ。当初はジムでも周りの人と比べて自分は劣っている、こんなこともできないのか……と恥ずかしさや悔しさばかりでした。でもそれを経たから今があり、あのキツさを乗り越えた自分だから、まだ他にもできることがあると思える。これ以上、上を目指さないなら何もしなくていい。でも僕はもっと上にいきたい! もっと有名になりたいんです。

――もっと有名に!? これ以上?

「お前何を言ってんの?」「まだそんなこと言ってんの?」と思いますよね?(笑) でも本気なんです。最近では台湾でライブができて、街に出ると地元の方から声をかけてもらえるなんて、デビュー当時から考えると信じられない状況です。だけど僕は、ヨーロッパでもアメリカでもアフリカでもキャー!って言われたい(笑)。だからこそ、恥ずかしさや面倒くささを乗り越えてもっと上を目指さないと。物事を理解する力や伝える力、表現する力を一つでも多く身に付けてそれを活動に生かしたい。宝くじは買わなければ当たらない、とはいえ買ったからといって当たる訳でもないように、頑張ればすべてが報われるわけじゃないけど、続けていないと努力が報われる時も来ないんですよね。

――「いいな~」と人をうらやんでいるだけでは、自分の状況は何も変わらないですもんね。

 日常の些細なことでも当てはまると思うんです。どんな人にもそれぞれの物語があるから、街の人A、街の人Bになるより主人公になった方が楽しいでしょ? 主人公といってもすごいことを成し遂げようとか、有名になろうとかいう話ではないんです。仕事でも人間関係でも毎日「つまらないな」「面倒くさいな」と言いながら暮らすのはやめよう。恥ずかしい、面倒くさいと逃げていたら同じことしかしない自分になってしまう。だから僕自身、今も色々挑戦中なんです。

――先ほど筋肉の話題も出ましたが、本書の帯や章扉で披露している筋肉美が発売前からテレビやインターネットで公開されましたよね。反響はいかがでしたか?

 当たり前ですけど(笑)、ここまで本格的に裸を撮っていただく機会はなかなかなかったので、驚かれた方も多かったみたいですね。「え? 西川はこんなことになっちゃってんの?」「何これ? アイコラ?」とか言われました(笑)。

――西川さんの筋肉トレーニングは相当キツそうですが、この本は心を鋼のように鍛えようという内容ではないですよね。

 全然違いますね(笑)。こうしなさい!ではなく、西川貴教の場合は……という話です。時々「西川さんはいいですよね」と言ってもらえることがあるんですが、毎日賑やかで楽しそうとかポジティブとか、「え? そんな印象を持ってくれていたの?」と申し訳なく感じることがほとんど。実際の僕なんて、自分にはあれもこれも足りないと悔しがったり、他人の才能や環境がうらやましくてしかたなかったり、いまだに毎日自分のことでいっぱいいっぱいですから(笑)。そもそも世の中には、一見うまくいっているように見えていても実際は……ということがよくあるじゃないですか。この本で僕の一例を読んでくれた誰かが「あ~、わかるこの感じ。西川もいろいろあったんだな」「この話に比べたらまだマシかもな」って感じて、少しだけでも気が楽になるかもしれない。そういう風に読んでもらえたら何よりですね。

(聞き手・草野美穂子)

新潮社 波
2017年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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