高田文夫×相沢直「突っ込みとは、訂正力である!」――『また出た 私だけが知っている金言・笑言・名言録(2)』刊行記念対談

対談・鼎談

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

また出た 私だけが知っている金言・笑言・名言録②

『また出た 私だけが知っている金言・笑言・名言録②』

著者
高田 文夫 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103400929
発売日
2017/06/16
価格
1,210円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

突っ込みとは、訂正力である!

伝説の『オールナイトニッポン』

相沢 人生で最も大きな出会いとなった芸人さんは誰ですか。

高田 弟子になったくらいだから立川談志師匠もそうだけど、やっぱり、たけしさんだろうな。同世代であの才能に巡り会ったのは、やっぱり運がいいんだなと思うね。

相沢 先生が構成だけでなく、出演もされた、伝説の『ビートたけしのオールナイトニッポン』(以下ANN)ですね。

高田 その前にね、俺、大学出てから10年間、とにかく放送作家として書きまくってた。だけど一緒に仕事をするのがポール牧さん、三波伸介さん、青空球児さん。みんな年上なんだ。三波さんなんか一回りも年上。芸には厳しい反面、原稿を書いて持っていくと、あれこれと教えてくれて、可愛がってくれたけど、なんか違うなと思い始めるのよ。この台詞の間(ま)はこうだよなとか、ここはこうやって欲しいんだけどなァとか、自分の原稿と演者に溝が出来てしまう。俺も若いから、生意気だしさ。

相沢 仕事はあっても、ストレスがたまる環境だったんですね。

高田 そんな時に、ビートたけしに出会うんだ。そうしたら言葉のリズムが一緒。考えていることから、感性まで、みんな同じ。お互い30過ぎてるけど、屈折してたな。俺は忙しいけど、世に名前が出ないし。たけしさんはまだ売れる前で、出番があっても客席がガラガラでね。「やってらんねぇよ」という二人が、出会うべくして出会ったんだな。

相沢 1981年1月1日にANNがスタートした時、高田先生がたけしさんと一緒にしゃべるというスタイルは、当初から想定されていたのですか。

高田 ない。俺も最初は一般の放送作家と同じように、進行表に書いたメモを、目の前のたけしさんに渡していた。でも、たけしさんも俺も、なんか調子が出ないんだよね。そのうち、たけしさんが何か言ったら「そんなバカな」とか「言わせておけば」とか、突っ込みを入れ始めちゃったんだよ。その間がはまったんだね。リズムというか句読点というか。俺が声を出して笑ったら、リスナーもここは面白いところ、突っ込むところなんだ、と分かってくるんだね。逆に俺が黙っていると、これはあんまり面白くないな、と。たけしさんにも伝わるんだよ。今のトークが受けているのかいないのか。

相沢 まさにライブですね。

高田 そこで俺がゲラゲラと笑っている声が、あの松村邦洋には「バウバウ!」って聞こえたんだよね。それが俺のモノマネで後に大ヒットして一世を風靡するんだから。でも「ANNと北野ファンクラブでウケてる高田文夫」なんてネタ、最初は誰も分かんないよな。マニアックすぎて。

相沢 ナインティナインの岡村隆史さん、爆笑問題の太田光さん、脚本家の宮藤官九郎さん、ANNの影響を受けて育った方が、今もラジオの第一線にいらっしゃいますね。

高田 今回の本にも書いたけど、今名前の挙がった人たちのラジオ番組は毎週聞いているよ。その理由は、彼らが面白いからというのもあるけど、俺とたけしさんのANNが負けていないか、チェックするためでもあるんだ。とにかく負けず嫌いで、勝てず嫌いだからさ。

相沢 どうですか?

高田 勝ってるね。TT砲だね。“たけし高田砲”。まだまだみんな、俺たちには敵わないね。

相沢 (笑)やっぱり。

高田 ANNでは色々なことができたし、俺とたけしさんの影響力は強いだろうな。俺の影響を受けたクドカンなんて、再来年は大河ドラマの脚本だからね。ハナタレ坊主が日本一の作家だよ。こんなことが起こるんだから、やっぱり、理屈で言うよりも、笑い話をいっぱい残してあげることが必要だね。そのエピソードで人柄が知られたり、芸事が分かったりって大事だよな。

相沢 特に笑いは瞬間、瞬間で残らないことが多いですからね。

高田 例えば、俺はよく談志師匠の言葉を書くんだけど「バカは隣の火事より怖い」なんて、そうだなって思うし、本当にバカって怖いから奥が深いじゃない。それから(明石家)さんまちゃんの「生きているだけで丸儲け」もいい言葉だよ。タモリさんの「やる気のある奴は去れ」もいいよな。

相沢 真理が出ますよね。重いというか、新しいことわざとして広まってほしいですよね。

高田 言葉って消えちゃうからね。だからこそ、こうして書き留めておきたいんだ。

あのCMソングまで!

相沢 それにしても「ホテル三日月」のCMソングの歌詞が入っているのも笑いました。

高田 こんな本ないだろ? 前の都知事が正月に家族連れで会議していたというホテルのCMソングだけど、作曲したのは、日大芸術学部の俺の同級生なんだ。『およげ!たいやきくん』作った男。あの話題で持ちきりだった時、そういえばこの歌、俺の友達が作ったんだとすぐに思い出してラジオにもすぐ呼んだんだよ。これが不思議だけど、俺って何が起きても、その話題を身近に引き寄せることができる。何かが誰かとつながっている。要は人間好きなんだな。人が好きで、誰とでも絡んでいくから、色んなネタが自然につながっちゃう。

相沢 思い出す材料とか、引き出しが無尽蔵にあるんですね。

高田 そう。だから人呼んで“検索要らず”。

相沢 記憶力とも重なりますが、高田先生のトークにおける反射神経の早さからも、頭の回転の早さが凄いのだなと思います。

高田 早いね。日本一だと思うよ。瞬間で言葉を選ぶセンス。これは実戦で鍛えたものだね。

相沢 やっぱり突っ込みですか。突っ込みの早さと的確さというか。

高田 ただ突っ込むのではなく、訂正する力というのかな。「違うよ!」とか「そうじゃねぇよ!」ではなく「○○という風に言うんだよ!」とか「松村、こうだろ!」って言うのが面白いんだよね。突っ込みとは訂正力である……あ、これ次に本が出る時に使おうかな。

相沢 まだまだ楽しみです。

高田 この本もそうだけど、相沢君にも、今まで誰にも話したことのないエピソードをたくさん話しているし、『ギョロメ伝』もぜひ、いっしょに読んで欲しいね。こっちも秘話満載だよ。俺の人生はイコール、戦後の大衆芸能の全てでもあるからね。

新潮社 波
2017年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク