【聞きたい。】武田砂鉄さん 『コンプレックス文化論』

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コンプレックス文化論

『コンプレックス文化論』

著者
武田, 砂鉄, 1982-
出版社
文藝春秋
ISBN
9784163906829
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】武田砂鉄さん 『コンプレックス文化論』

[文] 産経新聞社

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武田砂鉄さん

 ■心に染みる人情もの漫画

 「泣く子はいねが~。むっ、涙の匂い!」。悲しみにくれる人の元に、ある日こんな声が届く。現れたのは、人の言葉をしゃべる半纏(はんてん)姿のネコだった――。名もなき普通の人たちががむしゃらに生きる姿や、家族らの「無償の優しさ」などが描かれた人情もの漫画だ。

 「生きるということは、誰でも傷ができ、弱っていくということ。読んでくれる人に、『少しでも元気を出してほしい』と思いながら描いています」

 物語は1話完結型。毎回異なる悩みを抱えた人が登場し、家族の死や失業、健康上の不安などを主人公のネコ(名前は遠藤平蔵)が聞く。別に問題を解決してくれるわけではないのだが、ただ愚痴を聞いたり、黙って寄り添ってくれたりする。セリフの一言一言が、不思議と心に染みる。

 本書の執筆を始めたのは約2年前。高校生の息子の入院がきっかけだった。退屈そうに過ごす息子のために短い漫画を描き始めた。作品化するつもりはなかったが、「公開しないのはもったいない」との息子のすすめもあり、ツイッターに投稿したところ、インターネット上で反響を呼んだ。

 20代から漫画を描き続け、代表作の「カンナさーん!」はドラマ化され、現在放送中だ。ただ、一時期は主な仕事がなくなり、「(漫画家として)『終わった』と思う時期もあった」と振り返る。「私自身年齢を重ね、『生きることは大変なんだなぁ…』としみじみ感じています」

 現在は週3本のペースで執筆。ホスピスに入る読者から「何としても続きが読みたい」、若い夫婦からは「子供に読ませたい」という反応があったといい、「ネタ出しは大変ですが、読者からの声に後押しされています」と語る。

 本書は今春の手塚治虫文化賞(短編賞)を受賞。11月には同作をテーマにした個展も開催予定だ。「理想は『枕元に置いてもらえる本』。今後も細く、長く描き続けられたら」。愛猫のマリを膝に載せ、笑顔で語った。(講談社・1000円+税)

 本間英士

   ◇

【プロフィル】深谷かほる

 ふかや・かほる 昭和37年生まれ。福島県出身。主な代表作に「エデンの東北」「ハガネの女」など。

産経新聞
2017年8月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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