<東北の本棚>ビキニの教訓生かせず

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<東北の本棚>ビキニの教訓生かせず

[レビュアー] 河北新報

 1954年、太平洋上のビキニ環礁で水爆実験が行われ、第五福竜丸が被害を受けた、いわゆる「ビキニ事件」を検証し、福島第1原発事故への教訓とは何だったのかを考える。
 被ばくした第五福竜丸の乗組員は23人。未明、突如、黄色い閃光(せんこう)に船が包まれ、雨が降り白い雪のような「死の灰」が降ってきた。2013年9月28日、表題の番組をNHK・ETV特集で放送、再構成してまとめたのが本書である。サブタイトルは「ビキニからフクシマへの伝言」だ。
 事件後、若手科学者22人が調査船に乗り込み、ビキニ海域に向けて出航した。59年後、著者であるNHKディレクターは、生存する研究者一人一人を訪ね歩く。事件以前は、放射能汚染が海流に沿って拡大するとは考えられていなかったが、実際には1500キロ以上離れた島まで海の汚染が拡大していたことなど、当時は語られることのなかった証言を次々と得る。被害を小さく見せようとしたのは、当時の米ソ冷戦、核兵器の軍拡競争が背景にあった。
 被ばくした乗組員、市場の関係者、町の人たちなどに聞き取り調査した。報道が大量に流れ、風評被害で魚が売れなくなったこと、米国政府からの見舞金が「ねたみ」を生み、住民感情の対立を引き起こしたことなどを指摘する。福島原発事故でも、風評被害で農産物を中心に大きな影響を受けた。「正確な情報が不足して、不安をかき立てた」とする。最も大きな問題は「安全神話を疑わず、事故全体を把握する備えができていなかったことだ」と言う。
 著者は1974年神奈川県生まれ。NHKで数多くの特集番組を担当した。
 旬報社03(5579)8973=1512円。

河北新報
2017年10月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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