写真で事実を記録した男 その生涯を追った本格評伝

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写真家 三木淳と「ライフ」の時代

『写真家 三木淳と「ライフ」の時代』

著者
須田 慎太郎 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784582231281
発売日
2017/09/15
価格
3,672円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

写真で事実を記録した男 その生涯を追った本格評伝

[レビュアー] 碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 写真家・三木淳(みきじゅん)の代表作の一つに吉田茂の肖像がある。ふちのない丸眼鏡。火の消えた葉巻をくわえた口元が、わずかに微笑んでいる。撮影されたのは昭和26年6月。間もなく、サンフランシスコ講和条約が締結されようとしていた。

 この写真は、世界的な写真報道誌「ライフ」の表紙を飾った。米本国版と国際版など合わせて約1800万部が印刷され、吉田の顔が世界を駆けめぐったという。撮影した三木は当時31歳。ライフでただ一人の日本人カメラマンだった。

 須田慎太郎『写真家 三木淳と「ライフ」の時代』は、没後25年となる報道写真家の生涯を描く本格評伝だ。大正8年、三木は現在の岡山県倉敷市で綿織物の製造や貿易などを営む、豊かな商家の三男として生まれた。小学4年生で自分のカメラを持った少年は、写真クラブに入会するために慶應義塾大学へと進む。

 学生のまま出会うのが名取洋之助、亀倉雄策、そして師となる土門拳だ。この時代、土門は文楽と格闘しており、助手として肉体労働の連続ともいうべき日々を過ごす。「一級品を見ろ」「超一流の人間とつき合え」「一歩踏み込んでシャッターをきれ」といった土門の教えはライフで生かされる。朝鮮戦争、アメリカ南部、ニューヨークやボストンなどで、レンズを通して事実を記録していった。

 しかし、やがてライフに変化が起き始める。センセーショナリズムに傾き、より扇情的な写真、歪曲し誇張した写真が増えてきたのだ。昭和31年に、三木は約7年勤めたタイム・ライフ社を去る。以降、フリーの立場で多岐にわたる被写体を撮り続けながら、大学の教壇に立ち、また日本写真家協会や土門拳記念館などの活動にも尽力した。

 三木が72歳で亡くなったのは平成4年2月。もしも存命なら、デジタルカメラの普及やスマートフォンによる「誰もがカメラマンの時代」をどう見るか、聞いてみたい気がする。

新潮社 週刊新潮
2017年11月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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