自分の身に起きた事件を明らかに

レビュー

4
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Black Box

『Black Box』

著者
伊藤 詩織 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163907826
発売日
2017/10/18
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

自分の身に起きた事件を明らかに

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 レイプ被害を訴えた女性ジャーナリストが、自分の身に起きたことを書いた。当事者でありながら、できる限り冷静さと客観性を失わず、事実に拠ろうとする姿勢にまず敬意を表したい。

 事件については著者自身が二度、記者会見をしているのでご存じのかたも多いと思う。仕事の相談をしていたTBSワシントン支局長(当時)と都内で食事中に記憶を失い、気づいたときには彼が滞在していたホテルの部屋でレイプされていた。相手は政権中枢に食い込むジャーナリストである。迷ったすえ彼女は警察に被害届を出すが、逮捕直前に執行は見送られ、検察も不起訴とする。検察審査会も「不起訴相当」とこれを追認した。

 泥酔状態の彼女との間に性行為があったことは、相手の元支局長も彼女あてのメールで認めている。避妊具をつけず行為に及んだことも否定していない。タクシーを降り、ぐったりした状態でホテルに引きずられていく防犯カメラの映像も残っており、それだけで彼女が望まない性交だったのは明らかに思えるが、合意がなかったと証明するのはきわめて難しく、著者はさまざまな不条理に直面する。

 タイトルの「ブラックボックス」にはいくつもの意味が重なる。ホテルの部屋という密室、当事者以外の目撃者がいないなかで起きたできごとであること。さらに、警察が捜査をすすめるなかでも不可解なことが起きる。逮捕直前に上層部からストップがかかったり、捜査をしていた刑事や担当検事がいつのまにか外されたり。担当も高輪署から警視庁捜査一課に移されるが、じゅうぶんな説明は得られない。まさに、「ブラックボックス」なのだ。

 警察の柔道場で捜査員に囲まれ人形相手に被害状況を再現させられるなど、これはいつの時代の話か、と思うようなことが続く。体調もすぐれないなか、それでも彼女はねばりづよく真相にたどりつこうとする。ホテルの掃除の記録と元支局長のことばに矛盾があることを明らかにし、当夜、二人を乗せたタクシーの運転手を探し当て、自分が「駅で降ろしてください」とくり返していたことを確認する。週刊新潮の取材に対し逮捕にストップをかけたことを認めた刑事部長に改めて直当たりし、真意を聞こうと試みる。

 自分になにが起きたのかを明らかにしながら、不幸にして同じことが起きたとき被害者はどう行動すればいいのかを懸命に伝えようとするのが本書だ。この本の刊行とほぼ同時に、現在は政治ジャーナリストとして活動するもう一方の当事者も雑誌に手記を発表している。双方の主張に食い違う点は多く、両方突き合わせると後者の説明に多くの疑問を感じる。潔白を主張されるなら、記者会見を開いていただきたいと思う。

新潮社 新潮45
2017年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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