『幻の惑星ヴァルカン』
- 著者
- トマス・レヴェンソン [著]/小林 由香利 [訳]
- 出版社
- 亜紀書房
- ジャンル
- 自然科学/自然科学総記
- ISBN
- 9784750515281
- 発売日
- 2017/11/13
- 価格
- 2,420円(税込)
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科学的にはあるはずの惑星が科学的に破壊されていくまで
[レビュアー] 西田藍(アイドル/ライター)
十七世紀から二十世紀にかけての、新たな惑星の発見と、新たな秩序の発見をスリリングに描いたのが本書である。
のちにハレー彗星と呼ばれる彗星の発見者が、秘密主義であったというニュートンを世に出した。一六八四年の夏の日、ハレーは惑星の軌道について彼と話し、その答えに驚嘆し、彼の執筆、出版を後押しし続けた。そしてついにニュートンは、万有引力の法則を発表し、彼は「読者に世界の仕組を約束」したのだ。
天王星は一七八一年に発見された。ニュートン力学を検証し得る存在だ。若き数学者ラプラスは、洗練された数式で、太陽系の天体を説明しようとした。しかし、計算に合わない天王星の振る舞いの原因は不明のままだった。ラプラスの死後、当時工場勤めだったルヴェリエは、未知の惑星の存在を確信し、一八四六年に海王星を発見する。この新たな惑星の発見によって、ニュートン力学を疑うものはいなくなった。
そして、天王星と同じように、水星も、軌道の計算が合わなかった。海王星を発見したように、水星と太陽の間に、未知の惑星があるのではないか、という仮定から生まれたのが、幻の惑星ヴァルカンである。ヴァルカン探索はある種の狂騒とともに失敗に終わったが、水星の軌道の説明はつかないままだった。
そこに、アインシュタインが登場する。その理論は水星の観測結果と完全に一致した。一般相対性理論によって、ヴァルカンは完全に破壊されたのだ。
ヴァルカンをめぐる狂騒も、科学史の一部であるのだと、人間味あふれるエピソードが教えてくれる。天文学、物理学、数学……どれも縁遠い私はそれぞれ分断したイメージを持っていた。全て繋がっていて、この宇宙を説明しようとしている。本書はまさに、天体観測の“ロマン”の真髄を語っているのかもしれない。