実売900冊で本屋大賞 「ファンタジー好きにはたまらない」の声〈ベストセラー街道をゆく!〉

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カラヴァル 深紅色の少女

『カラヴァル 深紅色の少女』

著者
ステファニー・ガーバー [著]/西本 かおる [訳]
出版社
キノブックス
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784908059773
発売日
2017/08/23
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「埋もれた存在」がいかに本屋大賞を取るに至ったか

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 先日発表の「2018年本屋大賞」、ぶっちぎりの得点数で大賞を受賞したのは辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社)。結果に大きく頷いた読者も多いだろう。一方、翻訳小説部門の1位に輝いた作品の名前については―正直、きょとんとしたのではないだろうか?

 その名もステファニー・ガーバー『カラヴァル』。同賞の発表までの実売数は、じつに900冊程度。昨年1位を獲得したトーン・テレヘン『ハリネズミの願い』(長山さき・訳、新潮社)が受賞前に6万3000部出ていた事実と比べれば、この本がいかに「埋もれた存在」だったか伝わるだろう。

 本作は、さながら不思議の国とディズニーランドのいいとこどりをしたような、虚実ないまぜの空間に紛れ込んだ少女の恋と冒険を描くファンタジー作品。米国では発売直後からベストセラーランキングの上位に入り続けている人気作なのだが、日本語版の消化率はたったの25%。「でも売り場が限られている翻訳物のヤングアダルト作品にはよくあること。大手じゃなければ尚更です。発売直後こそ平台に置いてもらえても、数か月でほとんどが返本されてしまう」(出版関係者)。

 ところが本作の場合、初版発行部数3500部のうち社内在庫はわずか200冊。平均返本率40%台といわれる昨今、この数字は書店側に「売りたい」と思わせたことの紛れもない証拠だろう。実際、書店員からは「ファンタジー好きにはたまらない魔法のきらめきと仄暗さを併せ持つ作品」「中毒性がある」「女子の大好物が敷き詰められている」といった愛のあるコメントが数多く寄せられている。

 版元のキノブックスは創業5年弱、社員10名の小さな出版社だ。宣伝費をかけられないぶん、3人しかいない営業担当者が足繁く書店に通い、試し読み冊子やポスターの配布など、正攻法で時間をかけて「売り場をつくってもらう」という基本の作業を徹底した。「そういう意味でも、この本は“売り場からベストセラーをつくる”という本屋大賞の原点に適っていたのかもしれません」(担当者)。

新潮社 週刊新潮
2018年4月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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