『弁護士アイゼンベルク』
- 著者
- アンドレアス・フェーア [著]/酒寄進一 [訳]
- 出版社
- 東京創元社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784488290047
- 発売日
- 2018/04/28
- 価格
- 1,540円(税込)
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スピーディに展開する白熱の法廷劇
[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)
近年続々とドイツ人作家のミステリーが翻訳されているが、ここにまた新顔が登場した。アンドレアス・フェーアは法律関係の仕事に携わりながらミステリードラマの脚本を書いていたという。二〇〇九年のデビュー作で新人賞を受賞し、現在その警察小説シリーズは七作まで書き継がれているそうだ。本書は題名の通り、女性刑事弁護士のラヘル・アイゼンベルクを主人公に据えた、新シリーズの一作目である。
女子大生の損壊された遺体が発見され、容疑者としてホームレスの男が逮捕された。ラヘルは逮捕された男と行動を共にしていた未成年の少女から依頼され、弁護を引き受ける。だが男の顔を見たラヘルは仰天する。彼はラヘルの昔の恋人で、ハイコ・ゲルラッハという元物理学者だったのだ。
物語の序盤にはメインストーリーに加え、カットバックでコソボから逃亡を図った母と娘の姿が描かれる。はたして、このエピソードはメインストーリーにどのように絡んでいくのか、そして被害者の遺体に付着していたハイコのDNAという直接的な証拠など、被告に圧倒的に不利な状況の中、どのような方法で弁護し、逆転にまで持ち込むのか。
文庫で五百ページを超えるボリュームだが、展開は実にスピーディ。脚本家としてのキャリアが生かされているのであろう。別居中の夫や、同居している反抗期の娘との関係など、ラヘルの私生活も過不足なく描かれ、単なる法廷ドラマ以上の感興をもたらしてくれる。また人種へのヘイト行為に対するラヘルと夫が取る毅然とした態度からも、ドイツという国のあり方がかいま見られて興味深い。ラヘルが抱えるトラウマの存在もほのめかされており、次作も楽しみでならない。