[本の森 ホラー・ミステリ]『あなたの罪を数えましょう』菅原和也/『鏡面堂の殺人』周木律/『刀と傘』伊吹亜門/『入れ子の水は月に轢かれ』オーガニックゆうき

レビュー

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  • あなたの罪を数えましょう
  • 鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~
  • 刀と傘
  • 入れ子の水は月に轢かれ

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 ホラー・ミステリ]『あなたの罪を数えましょう』菅原和也/『鏡面堂の殺人』周木律/『刀と傘』伊吹亜門/『入れ子の水は月に轢かれ』オーガニックゆうき

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビューした菅原和也『あなたの罪を数えましょう』(講談社)は、著者ならではの痛みの描写能力の切れ味を活かし、読み手の心を刺激的な世界に――密閉された環境で一人また一人と惨殺されていく世界に――グイと引き込む。この模様と並行して、惨劇後の現場で、探偵と助手そして依頼人が事件を「発見」していく様子も語られる。両者はそのまま並列に進み結末へ。そこで読者は驚嘆する。それまで観ていた景色が、真相を知ると同時に実に新鮮なかたちで一変するのである。まさかあんなことが起きていて、あんな真相が判明しようとは。やはりこの作家からは目が離せない。

 周木律『鏡面堂の殺人』(講談社)は、七冊で完結予定のシリーズの六冊目。奇妙な建物で起きる奇怪な事件を数学(例えばリーマン予想)と密に絡めて語ってきたシリーズだが、今回の建物の使い方はひときわ鮮やかだ。今作のモチーフである相対性理論が、美しい物理トリックや学者たちの業と見事に一体となっているのである。シリーズとしての束縛がきついなかで、マンネリに陥るどころか更に進歩している点には感服するしかない。今年の二月には完結篇が刊行予定なので、今のうちに既刊六冊を読んでおくことをお勧めする。

『刀と傘』(東京創元社)は、二〇一五年にミステリーズ!新人賞を受賞した短篇を含む連作短篇集で、伊吹亜門の初の著書だ。三年で五篇というじっくりしたペースで仕上げられただけに、出来映えはすこぶるよい。江戸から明治への混乱のなか、初代司法卿となる江藤新平と尾張の武士の二人を探偵役として密室殺人などの怪事件を語るのだが、まずは各篇の意外性が抜群に素晴らしい。動機が意外で、しかもそれが現象や犯人の意外性を導いているのだ。結果として質の高い謎解きが並ぶことになるのである。しかも、作品全体としては、激変の時代を生きた男の物語としても読めるよう仕上がっている。期待を込めて、あえてハードルをあげるようなことを書くが、本書は、山田風太郎が明治を舞台に描いた傑作ミステリ群と共通する愉しさを与えてくれたのである。ちょっくら地味な題名だが、それを含めて凄味は抜群だ。

 オーガニックゆうき『入れ子の水は月に轢かれ』(早川書房)は、沖縄の歴史を背景として、連続する怪死事件を描いたアガサ・クリスティー賞受賞作である。正直なところ洗練されているとはいえないが、過去と現在、そして沖縄と本土と海外とに目配りして物語を編む視野の広さと構成力は得がたい。また、登場人物を戯画化しつつ内面も掘り下げていて(実はあれこれ背負っていたりする)、いつしか感情移入している自分に驚いたりもした。力量を感じさせる新人が登場してきたものだ。

新潮社 小説新潮
2019年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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