<東北の本棚>地域の文化、技術生かす

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<東北の本棚>地域の文化、技術生かす

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災後、被災地で生まれた数々のものづくり。中には、復興という目的を超えて地域ビジネスに成長したプロジェクトもある。21のプロジェクトを取り上げ、成り立ち、作り手の思い、商品について紹介する。全てを失い、ゼロから出発した人々が、やがて収入、生きがい、仲間を得ていく物語は、人口減少が進む地域再生のヒントにもなり得るだろう。
 宮城県亘理町の株式会社「WATALIS」は、着物の端切れを使った巾着「FUGURO」を制作する。発端は亘理町郷土資料館の学芸員だった引地恵さんが、被災した呉服店に資料調査に行き着物地をもらったこと。亘理の風習として、昔は袋にコメを入れて贈り物にしていた話を聞いたことがあった引地さんは、袋と着物地を結び付けた「ふぐろ」制作をひらめいた。デザイン性など新しい価値を付加し、販売を始めた。
 さまざまなコンテストに応募し、復興庁主催の「2013年度REVIVE JAPAN CUP」で大賞を受賞した。知名度は上がり、現在は全国50店舗で販売できるまでに成長した。「しっかり売れる製品をつくって産業として成り立たせて、手から手へ伝統技術を伝えていきたい」。一度は廃れてしまった地域の文化を、技と共に再び受け継ごうとする引地さんの言葉が印象深い。
 未経験のレザーバッグ制作に取り組むのは、宮城県南三陸町の電子部品工場「アストロ・テック」だ。「復興は新しいものを生み出し地域をより良くすること」という信念の下、繊細で美しい手織りのバッグを生み出した。年商は震災前と比べると1.7倍になったという。
 著者は茨城県出身のフリーライター。自身が取材した80超のプロジェクトを紹介するウェブサイト「東北マニュファクチュール」から、厳選してまとめた。
 小学館03(5281)3555=1728円。

河北新報
2019年5月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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