『小林秀雄 美しい花』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
精神文化の深淵を探る高僧の名前を冠した蓮如賞
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
蓮如上人といえば、十五世紀、室町時代の浄土真宗の高僧で、本願寺を再興したなどの功績をもって、五木寛之の歴史小説でもよく知られた人物です。ではありますが、わたしのような下世話な人間にとって一番のトピックといえば、子だくさんだったということ。第五夫人までめとり、もうけた子の数はなんと二十七人! 宗教界のビッグダディとして、東洋大学印度哲学科を卒業したわたくしは記憶に留めているのです。
そんな、少子化の危機が叫ばれている昨今、そのエピソードだけでもありがたい蓮如の名を冠したのが、一般財団法人本願寺文化興隆財団が主催する蓮如賞なのであります。「戦国の世に我が国最大の教団を作り上げた蓮如上人の五百回忌を記念し、その遺徳を顕彰する願いを込めて平成六年(一九九四)に創設。日本の精神文化の深淵を探るノンフィクション作品に贈与している」賞。当初は新人賞として公募していましたが、第八回から二年に一度、既成作家の作品に与えられるようになっています。
受賞者には正賞の記念品と副賞の百万円が贈呈され、現在の選考委員は宗教学者の山折哲雄とノンフィクション作家の柳田邦男。新人賞時代は、ノンフィクションの良い読者ではないわたしには馴染みのない受賞者名が並んでいますが、第八回の田辺聖子以降は、知名度の高い書き手の名前がほとんど。プロデューサー・演出家として数々のテレビドラマやドキュメンタリーを制作し、長野オリンピックの開会式と閉会式まで手がけた今野勉に授賞している(第十五回)のも目配りがきいていて、誰がどうやって候補作を選んでいるのか、発表されていないだけに興味津々です。
その最新の、第十六回受賞作が若松英輔『小林秀雄 美しい花』。若松は一九六八年生まれの批評家にして随筆家。六百ページを越えるこの大著は、昨年、角川財団学芸賞も受賞しています。不勉強にもトヨザキは未読なのですが、これまで大勢の批評家や研究者によって語り尽くされたといっても過言ではない小林秀雄に対し、どんな新しい言葉を寄り添わせているのか。こちらも興味津々です。