『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』
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料理の哲人活字デビュー!
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
何ごとも筆舌に尽くしてしまえる。そういう特殊能力を備えた天才に出くわせるチャンスはワタシの場合、10年に1回あるかないかですが、最新例がこの新書の著者、稲田俊輔。ネットではイナダシュンスケ名義で何年か前からよく見かける書き手で、料理すること食べることについて語らせたら今、いや、過去ン十年で一番じゃないだろか。
本業はインド料理から和食、ビストロまで、おいしい店あれこれの企画・運営というだけに、知識の広さ、経験の深さ、対象への愛の強さ、着想の突飛さがまず並みじゃないのは当然として、毎回うならされるのは語りの巧みさ。東海林さだおなら漫画で描くユーモアや飲食ブロガーなら写真に頼るディテールさえ、イナダは文字だけですらりと提示してきて、グラフィック要素の欠如を感じさせることがない。
活字デビューの『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』も例外ではなく、たとえばサイゼリヤの独特なスープを紹介するにも、「とりあえず中世ヨーロッパを舞台にした映画やアニメで夜更けに嵐の中をほうほうの体で宿にたどり着いたシーンを思い浮かべてみてください。そこで『スープくらいしかないけどいいかい?』と言われて出てきそうなやつ、と言えば伝わりますでしょうか。伝わりませんかね」という具合。
不思議とおいしいものについての不思議とおかしい話。そういうものが読めることを幸せと感じるアナタに、ぜひお薦めします。