日本人はなぜ政治について語らないか。現役東大院生が語った将来の不安

インタビュー

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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

著者
ブレイディ みかこ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103526810
発売日
2019/06/21
価格
1,485円(税込)

書籍情報:openBD

【特別インタビュー】イギリスから眺める日本の未来

[文] 読書のいずみ


ブレイディみかこさんと東京大学大学院社会学修士1年の任冬桜さん

「世界一受けたい授業」や「SWITCHインタビュー 達人達」などに出演し、注目を集めているブレイディみかこさん。著作の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には熱い反響が鳴りやまない。今回、特別に東京大学大学院に通う任冬桜さんと対談。政治ついて語らない日本の大学生や、教育の未来について語った。

 ***

任冬桜(以下:任) 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)を読ませていただきました。私は名前でも分かる通り外国人で、両親が中国人なんですが、私自身は生まれてからずっと日本で育ちました。私なりにレイシズムみたいなものを経験していたので『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の教室内の問題などは、読んでいて胸がいっぱいになりました。

ブレイディみかこ(以下ブレイディ) そういう読み方をしていただけて、ありがたいです。

任 日本ではまだ少ないかもしれませんが、移民の子どもが多かったり色々な家庭環境の子どもがいたりとなると、それが普段のリアリティですよね。周りの友達と一緒にそういうことを経験しながらで成長できる環境というのは、貴重だなと思いました。

ブレイディ どうして日本にはそういう環境がないのでしょうか。だって実際に外国人の子どもはいて、教室内にもいたりしますよね。なんで日本ではもっとオープンにぶつかっていけないんでしょうね。

任 私の場合は、学校で学年に1人2人外国人がいるかいないかという感じでした。当時はちょっと悩みましたが、だからといって同級生の子どもたちを責められるわけでもないですよね。この本の10章(「母ちゃんの国にて」)で、ブレイディさんと一緒に帰省をした息子さんが酔っ払った日本のおじさんに絡まれるというエピソードがありましたが、ひどいと思う一方でその人の無知を責められるかというと、難しく感じます。

ブレイディ あのおじさんに会って思ったのは、腹が立ったのに加えて「こういう人はこの人だけじゃないな、他にもいるな」ということなんです。あのときは泥酔していてあんなことを言ったけど、普段はそういうことを言わない人かもしれないですよね。でも何かの拍子で本音がぶわっと出てくるような、そういう空気が日本にはあるのかもしれない。

任 ほかにも、日本のDVDレンタルショップで、店員がブレイディさんに外国人らしさを感じて不自然な対応をするという場面もありました。日本ではそういうことがまだまだある気がします。

ブレイディ そうですよね。任さんは「外国人です」とストレートにおっしゃったじゃないですか。当事者ってそういう風にストレートに言うんだけど、当事者以外は言いにくいというか口ごもりがちですよね。かえって周りがどうしたらいいかわからなくて、なんとなく隠蔽されてしまうという空気もあるのかもしれない。まだイギリスほどたくさん移民がいるわけではないから。


任冬桜さん

任 私自身も自己紹介するときに、外国のルーツに関して一言言わないと、相手の方が「この人はどういう人なんだろう?」と慎重になってしまう気がします。

ブレイディ それはあるかもしれないですね。日本も「人種の多様性がない」みたいに言われてきたけど、実はずっとあったじゃないですか。私は今イギリス在住ですが、日本に帰って来ると外国の方がコンビニやレストランなどで働いている姿をよく見かけますし。だから「日本は多様性がない」とは言えないと思うんです。でもまだ「日本は多様性がない」という人がいたりしますよね。なんで目の前にあるものが見えていないかのように振る舞うのでしょう。そういう事実を否定したいのか、それとも考えたくないのか、どっちなんでしょうね。

任 外国人に限らず、多様性って色々ありますよね。性別とか出身地域とか病気とか障害とか。日本で生活する人には色々な違いがあるけれど、普段の生活ではそれが顕在化しないのかもしれません。

ブレイディ 日本には「違いがあってはいけない」というような感じがありますよね。理由を考えてみたら「同じ方が楽だから」かなと思ったんです。私も「多様性は実は大変なことだ」と書いているんですけど、色々考えないといけなくなるし、やることも多くて、衝突もあります。でも多様性がある方が、物事がダイナミックになるというか、新しいものが生まれてくるエネルギーがあると思うんです。すでに多様性が生じているのに「ない」と立ち止まっているのは、変わりたくない、向き合いたくないということですよね。

任 これからの日本社会を考えたら、もう向き合わないといけない局面に来ていますよね。実際はなかなか進みませんが。

ブレイディ イギリスも多様性や格差の問題でご存知のようにここ数年はカオスですが、その分ダイナミズムがあるというか。変えようとしているから無茶苦茶な方向に行ったりしているわけで。そういうのはあまり日本にはないですよね。

任 変化といえば、少し前に「SEALDs」が盛り上がったときも、一部の人たち以外はすごく冷めているような感じがしました。

ブレイディ 日本では、政治的になることが特別であるかのような感じがあるんでしょうね。

任 日常のあらゆるものに政治性があると思うんですが、それを政治的にとらえたくないという感覚があるのかもしれません。

ブレイディ それはなぜでしょうね。「SEALDs」が出てきたときも、かなり叩かれたじゃないですか。政治的であることがいけないというのは不思議ですよね。イギリスだとシティズンシップ教育などで政治的な子どもを育てようとしていると思うんですけど、日本はどうなんでしょう。今の日本の中学や高校の教育はどうですか。

任 公民や政治経済という科目はありますが、理念的なことというよりは暗記科目のような感じでした。あまり議論をする感じでもないですね。

ブレイディ 最近、息子が中学校でGCSE(義務教育終了時の統一試験)の受験準備を始めていて、国語の試験ではスピーチのテストがあるんです。一人ひとつのテーマでスピーチをして採点するんですが、13歳・14歳の子どもが演説文の書き方とかも本格的に習うんですよ。息子に周りの子たちのテーマを聞いたら「ボディイメージ」「摂食障害」「ナイフ犯罪」「LGBTQ」「テロリズム」「ポリティカルコレクトネス」などがあって、それぞれ演説文を書いて教室でスピーチする。イギリスは意図的に政治的な子供を育てています。それは国の力になるんですよ。いざとなったら、今の政権に物を言い、取って代われる人間を教育で作っている。民主主義ってそういうことだと思います。

任 海外の友だちと交流していると、積極的に社会問題について議論する子が多くて、感心してしまいます。

ブレイディ それは、教育の中で訓練しないと身に付かないし、生活と政治がどうつながっているかも考えなくなる。この辺は日本が変わらないといけないところだと思います。付け焼刃的に直せるものではないので時間がかかると思いますが、教育を変えることはすごく大切なことです。私の若い頃も日本の若い人や大学生って、政治的な議論とかをしないタイプだったけど、だんだん拍車がかかってタブー化していってる感じがします。でも大学生が政治的にならないで、誰がなるのでしょう?

任 日本の中でも大学に通うのは同世代の約半分ですし、恵まれている層だと感じます。でも実質的に今後社会を担っていく層であることも考えると、そういう議論が少ないことに危機感を感じます。メディアを通して社会問題を知っているかもしれませんが、情報としては知っていても直面したことはないだろうし、「ひどいといってもそこまでじゃないだろう」みたいな認識のズレがあるような気がします。

ブレイディ イギリスの場合も、為政者や知識層が庶民の生活がどうなっているかわからなくなって、乖離が激しくなってEU離脱につながった部分があると思います。イギリスは階級社会だから学校も住んでいるエリアも階級によって違う。すれ違うこともなかったりするから、別の階級の人がどういう暮らしをしているか、想像がつかなくなる。だから、今後の社会を担っていく人々にこそ、ぜひ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んでほしいですね。知識層と労働者の意識があまりにも乖離してしまうと、国の中が混迷するんですよ。大学で勉強している人たちが、地べたの現状を見たりフィールドワークをしたりしないと、まるでパラレルワールドで生きているようになると思います。

任 温室のような空間で机に向かって勉強するだけでは、問題意識が薄れてしまう気がします。現実社会とのコネクションを持つには現場に行くことも大事かと。

ブレイディ 机の上の勉強ももちろん大事だけど、統計の数字に出てこないことはフィールドワークでしかわからないですよね。これからの社会を作って行く人たちにこそ、そのことを胸に刻んで欲しい。庶民側からしても、為政者や知識層が自分たちに耳を傾けようとしてくれているのがわかれば、極端な考えを持つ政治勢力に走ったりしないですよ。これは、英国を含む近年の欧州が露呈している問題ですけど。

大学生は政治よりも自分の未来で精いっぱい


ブレイディみかこさん

ブレイディ 日本は段々視野が狭くなってきているような気がするんです。女性の問題もずっと引きずっているし。イギリスでの日本関連の報道というと、女性関連のことが多いです。あとは先日の台風19号の時にホームレスが避難所で受け入れられなかった件もたくさん報じられていて、ちょっと驚きました。多分日本のイメージに合うから取り上げるんでしょうね。そういうことをやりそうな国だと思われているみたい。

任 日本のトップに立つような層が実はあまりそういった問題に明るくない気がします。今年の春、東大の入学式で上野千鶴子先生がそういう話をしたら、かなり反発がありました。

ブレイディ 女性の問題は根深いから、これはなんとかしていかないと大変だなと思います。もう23年前のことだから自分ではすっかり忘れているんですが、友人によると、私は当時「日本は女が住む国じゃない。だからイギリスにきた」と言っていたらしいんです(笑)。なんというか、日本はいつまでたっても変わらないですよね。女性の問題に限らず。

任 どうやったら変われるんでしょうか。若い人が動くことの必要性を感じるけれど、若い人は絶対数が少ないし、実質的に社会を回しているのは年齢が上の層です。

ブレイディ やっぱり教育かな。私もどうやったら変わるのかと、色々考えて、いろんな人と話したりもしますが、結局付け焼刃的な対策では無理だと思います。20、30年先を見据えて、教育を変えるしかないのではないでしょうか。権威に対して自分の言いたいことを言える人間を育てていかないと、国が衰退するだけです。今の権力者たちが正しいことをし続けるとは限らないから、間違ったことをしはじめたときにそれに気づいて「間違ってるよ」と言える人を育てないと。
 息子の学校では、この前も「イギリスで女性参政権が得られたのは、エミリー・デイヴィソンらサフラジェット※が女性参政権を求める運動をしたからか? それとも直接の原因は第一次世界大戦が起こって女性が働かなければならず地位向上の必要が生じたためか? どちらだと思うか考えを書きなさい」という問題が歴史の試験で出たんです。こういうことを普通の公立校の13・14歳の子が考えているんです。私はまさにこういうテーマの本を出したばかりなので、「私、イギリスの子どもと同じこと考えてる!」と思いました(笑)。小さい時からこういう教育を受けているかどうかって大きいですよね。だから政治的なことを議論して楽しめるという感じがイギリスにはあるのかも。日本には「政治的になったら危ない」みたいなのがありますよね。それはどこから来ているのかと思います。

任 若者も自分の心配で精一杯になっているのかもしれません。「将来の見通しがつかないなか、どうしていくか」という迷いが同世代の中にあるように感じます。

ブレイディ 若い人が政治に関心がないとか、自民党を支持している若者が多いと統計には出ているようですが、経済学者の松尾匡さんがそれについて「保守的になっているわけじゃなくて、就職や将来を心配しているから、慣れている自民党じゃないと怖いという面があるのだと思う。また民主党政権のときみたいに大変なことになったら困るというのも。他に選択肢がないだけで、政治的な理念が保守的になっているわけではない。何よりも将来への不安が大きいんだ」と言っていたんです。それは間違っていないのではないかと、お話を聞いていて思いました。

任 社会保障もどうなるかわからないし、自分の人生の見通しがつかないから、周りのことを考える余裕がないんだと思います。

ブレイディ 私はバブル世代なので、当時の大学生はもっと楽観的だったと思います。今の大学生はそういう感じなんですね。なるほど。それは大人と政治が悪いですね。不安を煽るばかりで、明るいものを何も提示できていないということだから。むしろ、脅すことで統治しようとしている感じがしますね。

任 確かに日本社会に明るさを感じることは少ないですね。

ブレイディ その暗さはにじみ出ていますよ。なんだか陰気で勢いがないですよね。これから少子高齢化で子どもの数が少なくなるからこそ、教育は益々大事になる。困るのは大人ですよね。年をとったときに国が回らないから。

任 ブレイディさんの著書には日本が前に進むためのヒントがあるような気がします。『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)も読ませていただきました。普段触れない底辺層であったり、移民同士の対立といったリアリティに衝撃を受けましたが、その一方でイギリス社会の草の根の底力を感じました。日本でも地域のつながりを見直すことで活力が出てくるのかなとも思いました。

ブレイディ なんでイギリスの人が草の根で色々やるのかと思ったら、シティズンシップ教育でそういう実習をするんですね。子どもが自分たちでボランティアの計画を立て予算を管理してプロジェクトを運営し、本当にやってみるんです。そういうのを子どもの頃からやっていると、ボランティアは特別なことではなく普通のことだという感覚が根付くんだと思います。

任 そういうことをきちんと次世代に伝えていくのが大事だと思います。

ブレイディ 特にイギリスの公立校だと「学校もコミュニティの中の一つ」だという感覚があります。本に登場したミセス・パープルが生理用品を配布する活動をしているんですが、シングルマザーなど貧しい人のために、寄付を集めて、生理用品や赤ちゃんのおしりふきなどフードバンクにない日用品を図書館の入り口のところに置いているんです。そういう活動を日常的に子どもにも手伝わせているのも大きいと思います。情報だけじゃなくて、そういう草の根的な活動を見ながら育って、当たり前のように自分もやる。「社会への信頼ってこういうことだよね」と思います。そこがイギリスの一番好きなところの一つかもしれないですね。

任 最後に大学生に一言お願いします。

ブレイディ 明るい未来を提示できていないのは大人の所為です。でも頑張っている人がいるのも知っているし、私のような小さな力でも何かの役に立つことがあれば私もやりたいと思う。なので大学生のみなさんも、就職の心配をしないといけないのはわかるけど、社会や政治のことなど就職以外にも目を開いてみてください。就職で人生終わるわけじゃないし、社会が変わることでより生きやすい世の中になるかもしれない。社会や政治で起こっていることをもっと自分の目で見て、行動できるときに行動してほしいと思います。一人ひとりの力がないと日本社会はきっと変わらないです。私ももっと皆さんに読んでもらえるような本を書きます。

任 ありがとうございました。

(収録日:2019年11月5日)

※suffragette:20世紀初頭の英国の婦人参政権論者

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ブレイディみかこ
保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。 県立修猷館高等学校卒業。 音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争——ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数。2019年6月発売の最新刊『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)は、Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞、ならびに第73回毎日出版文化賞特別賞など受賞多数。

任冬桜(にん・とうおう)
東京大学大学院社会学修士1年。日本の中で外国人がどのような経験をするのかという興味のもと勉強しています。いろんな人がお互いの出自を尊重しあって共生できる社会になってほしいです。

※【特別インタビュー】イギリスから眺める日本の未来――「読書のいずみ」161冬号より

読書のいずみ
161冬号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

全国大学生活協同組合連合会

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