100歳の科学者が示す「人間とAIが“生命体”として共存する未来」

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ノヴァセン

『ノヴァセン』

著者
ジェームズ・ラヴロック [著]/藤原 朝子 [監修]/松島 倫明 [訳]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784140818152
発売日
2020/04/30
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

人間と超知能が共生することで地球の恒常性が維持される

[レビュアー] 鎌田浩毅(京都大学大学院教授)

 地球はそこに棲む生物と互いに関係しあう巨大な「生命体」で、今も進化し続けている。一九六〇年代にそう主張した世界的な生物物理学者が、当時の「ガイア理論」をさらに先まで展開したのが本書だ。タイトルは、人間が地球環境を左右した地質時代の「人新世」(アントロポセン)が終わって到来する「新しい時代」(ノヴァセン)を意味する。

 本書は三部からなり、パート1「コスモスの目覚め」では一三八億年前に宇宙が誕生し人類まで進化を遂げる自然界のプロセスを概観する。次のパート2「火の時代」では、人類が化石燃料を利用して産業革命を起こし、環境を改変した歴史を振り返る。

「石炭を掘り出すことで太陽光をエネルギーとして利用し始めたアントロポセンは、今度はそのエネルギーを使って、情報を獲得し蓄積するようになった」。その情報革命から一部の分野で人間の知能を凌駕する人工知能(AI)が産まれ、世界は激変し始めた。ここからパート3「ノヴァセンへ」の議論が展開する。

 副題に「〈超知能〉が地球を更新する」とあるように、AIが世界を支配する予測は他の未来学者と共通する。一方、ガイア(地球)が「自己に目覚める」過程で、人間と超知能が共生することで地球の恒常性が維持されると説く。

 地球を生命が居住可能な惑星として存続させるため、人間とAIが共通プロジェクトを遂行する時代が到来した、と著者は考える。「人間と機械との戦争が起こったり、単に人間がマシンによって滅ぼされるといったことが起こることはまずない(中略)マシンが自らのために、人間という種をコラボレーションの相手として確保しておきたいと思うからだ」。

 ノヴァセン時代の生物圏には、人間と超知能が同様の「生命体」として共存する。というのは「地球上の植物がガイアの恒常性を維持するのに欠かせないように、人間も引き続き、ガイアにとっては欠かせない存在」となるからである。

 評者の専門とする地球科学から見ても、本書は地球環境の変遷を学ぶ際のすぐれた入門書である。さらに、ワーズワースやシェークスピアの名句をちりばめた教養あふれるお洒落な読み物ともなっている。

 本書は一〇〇歳になった著者が地球と生命の未来を大胆に構想したものであり、最先端の知性はどこへ進むべきかを提示する。ビジネスパーソンや学生に限らず、アフターコロナの今こそ視野を広げようとする全ての読書人に薦めたい。

新潮社 週刊新潮
2020年6月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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