安易な自粛の根底にある“やめられない社会”

レビュー

9
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音楽が聴けなくなる日

『音楽が聴けなくなる日』

著者
宮台 真司 [著]/永田 夏来 [著]/かがり はるき [著]
出版社
集英社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784087211238
発売日
2020/05/15
価格
902円(税込)

書籍情報:openBD

安易な自粛の根底にある“やめられない社会”

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 テクノバンド「電気グルーヴ」のメンバーで、俳優でもあるピエール瀧が、麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたのは昨年3月だ。レコード会社は即座に電気グルーヴの全ての音源・映像の出荷停止、配信停止を決定する。完全な自粛だが、理由は示されなかった。

 逆に「反社会的行為は容認できない」、「犯罪者が社会に与える影響を考慮した」などと言う必要もない、当たり前だという姿勢が透けて見えた。宮台真司、永田夏来、かがりはるき『音楽が聴けなくなる日』は、「それって本当に当たり前なのか?」という疑問からスタートしている。

 社会学者の永田は、事なかれ主義や前例主義など自粛の背景にあるものを指摘する。音楽研究家のかがりは、この30年間の自粛の歴史を振り返り、平成を「自粛の時代」と呼ぶ。そして『サブカルチャー神話解体』などの著書で知られる宮台は、この問題が音楽というジャンルに限定されたものではなく、社会の根幹に関わるテーマであることを明らかにしていく。

 中でも宮台の主張に注目したい。原発そのものよりも「原発をやめられない社会」をやめよう。同様に、電気グルーヴ作品の販売・配信停止の措置そのものよりも「そうした措置をやめられない社会」をやめようと言うのである。

 不祥事発覚後、当事者の出演や活動を控えるのは仕方ないかもしれない。しかし、過去の作品にまでさかのぼる安易な自粛は、思考停止に他ならないのだ。

新潮社 週刊新潮
2020年6月25日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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