『くそじじいとくそばばあの日本史』
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くそじじいとくそばばあの日本史 大塚ひかり著
[レビュアー] 吉田伸子(書評家)
◆パワフル老人の強烈人生
『女系図でみる驚きの日本史』『エロスでよみとく万葉集 えろまん』等々、独自の視点から歴史や古典を読み解いてきた著者が、今回スポットを当てるのは、歴史に名を残す、くそじじいとくそばばあたち!
ベースとなっているのは、「くそじじいやくそばばあって、かっこいいんですよ」という著者のスタンス。「年寄りって、優しさとか穏やかさを求められがちですが、そんなふうに人の期待に応えようとしたりいい人でいようとしたりするから、詐欺にも引っかかるし、腹も立つ」
長谷川町子の漫画『いじわるばあさん』に、「子ども心にも痛快で、アンチヒーロー、ダークヒーローの魅力」を感じた著者は、自身が数えで還暦をむかえる年になり、「超高齢化社会となった今、こういう爺婆(じじばば)のパワフルさこそが求められているんじゃなかろうか」と思う。そこで歴史に目を向けると「いるいる、くそ爺婆がいる」。というわけで、本書では天照大御神の子孫であるヒコホホデミノ命(ミコト)から、三度結婚した小林一茶まで、そのくそ爺婆っぷりをたっぷりと紹介しているのだが、これが目からウロコの連続!
八十一歳で政界デビューした、天台宗僧、天海。彼は百歳過ぎまで政界に君臨した、「政治的パワーみなぎる『くそじじい』」だし、春日局を義理の叔母にもつ祖心尼(そしんに)は、将軍に重んじられて女性でありながら政界で影響力を及ぼした「スーパーくそばばあ」。とんちで知られる一休さんは、七十七歳の時、二十代後半の盲目の女性と愛欲に溺れ、なおかつその様を「露骨なまでに書き記していた」。
出るわ、出るわ、後世に知られる歴史上の人物たちのくそ爺婆っぷりは、時にあはれを誘い、時におかしく、何よりも、そのパワフルさには目を見張る。葛飾北斎は数え年で九十歳で没したが、百十歳まで描き続けたい、と書き記したのは、彼が七十五歳の時だった。
老いてなお、しなやかにしたたかに生きるヒント。本書のそこかしこには、それが詰まっている。
(ポプラ新書・946円)
1961年生まれ。古典エッセイスト。著書『源氏物語』全訳6巻など。
◆もう1冊
貝原益軒著、伊藤友信訳『養生訓』(講談社学術文庫)