『ミカンの味』
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四人の女子生徒をめぐるすさまじい受験小説
[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)
教育水準が今一つの地域の公立中学に通う女子生徒四人を描くシスターフッド小説である。冒頭は高校の入学式に始まり、そこに至るまでの道のりが描かれる。四人は中学の“卒業旅行”である約束を交わし、それを実行したのだった。
成績優秀で恋愛経験も豊富なリーダー格のダユン、なにもかもが中くらいでそれがコンプレックスのソラン、BTSの大ファンでややひねくれ者のヘイン、離婚した母親と祖母と暮らす大らかな性格のウンジ。
すさまじい受験小説だ。ある意味、日本より熾烈な学歴社会の韓国では、大学進学率はほぼ百パーセント。どの高校に進むかが一生を左右する。
韓国の高校制度と大学進学のシステム、およびいま抱えている問題が、アメリカにそっくりなことは、この本で初めて知った。入学選抜のない一般高校の他に、科学や語学に特化したエリートの「特殊目的高」などがあり、こちらは競争が激しい。格差を助長しているとの批判から、数年後には、抽選で振り分ける一般高校に転換する予定という。ニューヨーク市内にある「特別専門高校」群に対して、同市長が格差是正のため抽選制度導入を進めているのと重なる。
大学統一入試が一般的でないところも、アメリカと似ている。内申書の内容やスペックを“盛る”ために、大人が奔走するのだ。中学はある子を特殊目的高に入れたくて、彼女を青少年模擬国連会議に推薦し、ある親は娘を名門女子高に入れようと、住所偽装をする。そのかたわら、陰湿ないじめにあって気を失う子がいれば、父親の事業失敗でヤングケアラーのようになる子、重い病気の妹をつねに優先される子もいる。
結末はわかっている倒叙法だが、ミステリのようにはらはらしたし、女子同士の気持ちの探り合いや反感や愛情の機微のこまやかな描写には、熱いものが胸にこみあげた。緑色のままもがれて出荷されるミカンに少女たちを喩えた題名が切ない。