『日本仏教史入門』
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<東北の本棚>多くの疑問 平易に回答
[レビュアー] 河北新報
本書の緒言によると、国内には7万7000もの仏教寺院があるという。2019年の数字だそうだが、コンビニエンスストアの総数をしのぐというから、驚きだ。
仏教は日本人の暮らしに、かくも強固に根付いている。それはなぜか。タイやチベットの仏教にはない、僧侶の妻帯や肉食も許す独特の教義がいかに形成されたのか。山形大名誉教授で、日本中世史と宗教社会学が専門の著者が、さまざまな疑問に平易な言葉で答えてくれる。
インド発祥の仏教は6世紀、朝鮮半島の百済を経由して日本に伝来した。列島にはもともと「八百(やお)万神(よろずのかみ)」への信仰があった。なのに仏教を受容したのは、それが当時の規範だった中華の文明と見なされたからだ。
古代の僧侶は墨染めの衣を着た官僚であり、第一義の仕事は鎮護国家を祈ること。彼岸へ旅立つ者や、穢(けが)れの極致とされた病者の救済が命題となったのは鎌倉期の話で、仏の教えが広く庶民階層にも行き渡ったのはその後のことだ。
中世以前に活躍した空海、道元、親鸞らが教養本のコーナーでも人気なのに比べ、近世の仏教に関する一般の興味はさほど高くないように思える。著者は、羽黒修験の活躍や、出羽上山(現在の上山市)に配流された沢庵和尚の事績など東北地方での展開についての知見を交え、この時代の重要性を説く。
近世、僧の葬式従事が当たり前になり、四国遍路や出羽三山などへの参詣が一般化した。木版印刷による大蔵経の大量出版を背景に、教義の研究も深化を遂げた。各人がその職務を全うすることが仏の心にかなうとの倫理観が根付き、明治維新の近代化を容易にさせた、とも。
葬式仏教と揶揄(やゆ)されることもある日本の仏教だが、国民の精神性を形成する上で果たした役割は大きい。現代人の暮らしにも、いろんな恩恵をもたらしているのだ。(村)
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平凡社03(3230)6580=946円。