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TV業界で活躍したミステリ作家たち ドラマとはひと味違う物語も
[レビュアー] 若林踏(書評家)
リチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクは〈刑事コロンボ〉や〈ジェシカおばさんの事件簿〉といった名作ミステリドラマを生み出した脚本家コンビである。この二人が米国の『ヒッチコック・マガジン』などに寄せた短編を集めたのが『レヴィンソン&リンク劇場 突然の奈落』(浅倉久志ほか訳)だ。二〇二一年九月に刊行した『皮肉な終幕』(扶桑社ミステリー)に続く日本オリジナル作品集の第二弾で、映像ミステリ界に多大な功績を残したコンビの小説分野での傑作が堪能できる。
不穏な状況設定を描き、最後に捻りの効いたオチで唸らせるというのがレヴィンソン&リンク作品の特徴だ。最たる例が「氏名不詳、住所不詳、身元不詳」である。ひき逃げされたショックで自分が何者か分からなくなった男が、所持品である千ドル札を手掛かりに記憶を取り戻そうとする話で、発端からは予想も付かない見事な幕切れが待つ。この他にも軍隊内を舞台にしたシリアスなタッチの「生き残り作戦」や、風変わりな賭けが描かれる「最後のギャンブル」など、名探偵が登場するTVドラマ作品とはひと味違った物語が楽しめる。
レヴィンソン&リンクのようにTV業界に深く関わったミステリ作家は、日本にも多い。『アリスの国の殺人』(徳間文庫)や『完全恋愛』(小学館文庫)などの本格謎解き小説で知られる辻真先は、まさにその代表格。NHKで番組制作や演出を経験し、退職後は「鉄腕アトム」や「デビルマン」といったアニメや特撮の脚本を執筆した。日本のテレビ・アニメの発展を身近で見守ってきた作家である。
現役の番組演出家で小説を執筆する作家には、長江俊和がいる。長江の手掛けた〈放送禁止〉シリーズはミステリファンが目を引くような仕掛けが施されたフェイク・ドキュメンタリー番組だったが、その趣向を活字媒体に取り入れたのが『出版禁止』(新潮文庫)だ。長江自身が別のライターが残した曰く付き原稿を手にするという、企みに満ちた架空のルポルタージュ小説である。