『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』鈴木忠平著(文芸春秋)

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アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち

『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』

著者
鈴木 忠平 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163916781
発売日
2023/03/29
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』鈴木忠平著(文芸春秋)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大教授)

新球場を実現 熱き大志

 クラーク博士が札幌農学校教頭の職を去るとき、教え子たちに授けたあの有名な言葉は、どこで発せられたのか。そりゃ札幌だろう、と思われるかもしれないが、実は隣町の北広島市なのだそうだ。本書から教わった。

 明治に広島県の元士族らが入植して開拓されたことから「北広島」の地名が付いたこの町は、いま世の中の注目を集めている。プロ野球・日本ハムファイターズの新たな本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」がこの町に建てられたのである。

 本書は、球団が愛着のある札幌ドームを離れる決断をし、新たな球場の建設地を北広島に定めるまでを、それに関わった球団関係者、北広島・札幌両自治体の職員らの仕事ぶりに注目して綴(つづ)られたノンフィクションである。

 200万人の大都市に、6万に満たない地方都市、財政規模でいえば40分の1に過ぎない小さな町が打ち勝った、という視点で語られているわけではない。なぜ北広島なのか、なぜ札幌は球団を引き留めきれなかったのか、関わった人物一人ひとりの来し方を丁寧に刻み込み描くことで、それらの理由が説得力を持って伝わってくる。

 本書執筆の契機となった、元日ハム番の新聞記者で、現在球団の広報担当を務める人物は、「この球団の男たちは胸の中に未開地のような場所を持っていた」という感懐を抱く。本書の重要なテーマである。胸の中の未開地に「大志」を持って鍬(くわ)を入れる。その思いが、新たな本拠地を構想し実現する大きな原動力となった。

 新本拠地は、「球場を基点に街をつくり、コミュニティを生み出す」、「開場時にはまだ完成形ではなく、そこからボールパーク自体が街へと成長していく」ことを理念としているという。開場から2ヶ月が経(た)ったいま、“不入り”など負の報道が目につく。そんなすぐに結果は出ない。ボールパークの成長を見守ろうではないか。

読売新聞
2023年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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