『装幀余話』
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『装幀余話』菊地信義著(作品社)
[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)
亡き菊地信義氏は装幀(そうてい)界の巨匠。拙著を担当してもらったとき、どんな表紙になるかドキドキして待った。ところが仕上がりは真っ白な表紙に文字だけ。「この本に余計なデザインは要らないんです」と言われて拍子抜けしたことがある。
氏の単著は14冊目、今回は未掲載のインタビューやエッセイを集めた。製本はかつて職人の手作業だった。装幀家は印刷所や製本所とミリ単位の交渉をし、素材感や色彩感を追求。出版社が異なるインクを使った時代は会社ごとに本の手触りやにおいまで違った。
雑誌の装幀は外へ外へ、本の装幀は内へ内へと読者を向かわせる作業という。キャリアを積み「装幀は余計なもの」との極みにたどり着く。余白は無限の広がり。表紙に文字だけ、というスタイルは物語の意味と対峙(たいじ)し、突き詰めた先の表現。「ほとんどなにもしないに等しい緊張感、恐怖心」。それこそが仕事、との記述に、見栄えよくデザインすることが装幀の仕事と思いこんだ己の未熟を恥じた。装幀家が「ジャンプ」できるかどうかは作品のレベルに因(よ)るという。ヨシ、ひと仕事しようじゃないか。