『トゥルー・クライム・ストーリー』
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『トゥルー・クライム・ストーリー』ジョセフ・ノックス著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
ミステリーの手法の一つ「信用できない語り手」には、大きく分けて二つのタイプがある。一つは、物語を主導する語り手が、読み進むにつれて「わけあり」な雰囲気を漂わせ始め、その理由が結末できちんと説明されるというタイプ。もう一つは、最後まで読んで初めて、読者が信用しきっていた語り手が犯人(または黒幕や協力者)だったと暴露される場合。これは究極の背負い投げです。
さて本書は、実を言うとこの二つのどちらのタイプでもない。まるごと一冊「作中作」の構成で、作中作の著者の一人である(リアルな著者と同姓同名の)作家ジョセフ・ノックスは、最初からうさんくさいのだ。女子大生失踪事件の謎を追うルポルタージュ、それも他の作家が取材して書いた草稿をまとめ上げたものなので、事件を追う道筋のなかから、ノックスは自分にとって都合の悪いことを自由に伏せたり変えたりすることができる。いわば「信用できないミステリー」なのだけど、目を凝らしていればどこかで「トゥルー」を見つけられるかもしれない――と引き込まれるのです。池田真紀子訳。(新潮文庫、1265円)