「孤独」を感じ不安になるのは“脳の勘違い” 池上彰が『メンタル脳』から導く不安への対処法

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メンタル脳

『メンタル脳』

著者
アンデシュ・ハンセン [著]/マッツ・ヴェンブラード [著]/久山葉子 [訳]
出版社
新潮社
ISBN
9784106110245
発売日
2024/01/17
価格
1,100円(税込)

脳は「昔のままの世界にいる」

[レビュアー] 池上彰(ジャーナリスト)

■脳の勘違い

 私たちが生きているのは、私たちの祖先が生きのびることができたから。私たちの身体や脳は、生きのびて子孫を残すために進化した。そのために脳は、あらゆる危険を遠ざけようとする。そこで使われるのが「感情」だ。恐怖や不安という感情を使って本体を生きのびさせてきたという。人間の先祖はアフリカのサバンナで狩猟採集民として暮らしていた。その時代は、子どもの半数が10代になる前に死んでいた。私たちの脳は、いまだにその世界に住んでいると勘違いしている。

 サバンナでの生活は過酷だった。草むらで何かが動いただけでびくりとするのは、「危険な動物が隠れているかもしれない」と思うからだ。「独りぼっちになるのも嫌いで、群れの中にいられるように全力を尽くします。サバンナでは群れで暮らすのが1番安全で、独りになったら死んだも同然だったからです」と解説されると、なるほどと思う。だから私たちは「独りぼっちだ」と思うと、不安という「感情」に動かされ、仲間の集団に入ろうとするわけだ。孤独が怖いのは当然だ。長期間の孤独は、サバンナでは死を意味していたのだ。

 どうせ感情に左右されるなら、幸せな気持ちが長続きした方がいい。そう思うだろう。しかし、幸せな気持ちが続いていると、人間は次の行動に移ろうとはしなくなる。サバンナでボーッとしていたら、いつ猛獣に襲われるかもしれないし、食べ物が手に入らずに飢え死にしてしまうかもしれない。そう考えると、脳としては、幸せな気持ちをなるべく短くした方が生きのびやすいと判断するだろう。こうして私たちが幸せに感じる時間はすぐに終わってしまうのだ。それは不満かもしれないが、脳がそのように判断してきたからこそ、私たちの祖先は生きのびることができたというわけだ。

■「不安」を感じたら、こう考えよう

 では、ストレスはどうして起きるのか。それは「闘争か逃走か」と呼ばれる状態になるからだ。サバンナに生活していたら、危険はつきものだ。何か起きるたびに、「ここは闘争つまり戦う場合か、それとも逃走、逃げる場合か」を判断しなければならない。これがストレスだ。

 これに対し「不安」は「事前のストレス」だという。たとえば先生に怒られた人はストレスを感じるが、「明日、先生に怒られたらどうしよう」と考えるのが「不安」だという。不安を感じるのは嫌なもの。でも不安とは脳が「何かがおかしい」と私たちに知らせるための手段なのだという。であるならば、不安を感じたら、「脳はどんな警告を発しているのだろうか」と考えるだけで、不安はかなり解消されるのではないか。それでも不安に感じたら、「脳が勘違いしているな」と思うこと。これで不安はだいぶ解消されるだろう。

新潮社 波
2024年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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