ダイエットに成功はなく、肥満は死につながらない? 食の研究者が明かす意外な事実

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一流のコンディション

『一流のコンディション』

著者
トレイシー・マン [著]/佐伯 葉子 [訳]
出版社
大和書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784479783855
発売日
2017/04/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ダイエットに成功はなく、肥満は死につながらない? 食の研究者が明かす意外な事実

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

食の研究を始めて、もう20年以上になる。大学の食の研究室でずる賢い実験をおこなうこともあれば、アメリカの学校のカフェテリアにいる子どもたちや、毎年開催される熱狂的な食べものの祭典にやってくる人たち、さらには国際宇宙ステーションの宇宙飛行士たちといった人々に、研究室で実験をおこなうこともある。

実験を通じて、驚いたことに、これまで自分が真実だと信じていたことは、ことごとく間違っていたことがわかった。

なんと、ダイエット業界の三本柱である「ダイエットは成功する」「ダイエットは体にいい」「肥満は死を招く」まで…。実際には、ダイエットに成功はないばかりか体に悪く、肥満は死に繋がらないことがわかったのである。(「はじめに 『意志力の神話』が通じない健康と食の科学」より)

こう記している『一流のコンディション』(トレイシー・マン著、佐伯葉子訳、大和書房)の著者は、ミネソタ大学健康心理学教授。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で終身教授を務めたのち、2007年に同大学へ移り、健康と食の研究室を設立したのだそうです。

他にも本書では、「セルフコントロールができないから太るわけではない」「意志力を使っても痩せられない」など、ダイエットに関する従来の常識がことごとく覆されています。そして自身の研究結果に基づいて著者が伝えようとしているのは、「健康的な人生を送るのに、ダイエットは必要ない」ということ。この健康的な生き方こそが重要だというのです。

PART I「なぜダイエットは失敗するのか? 絶対に痩せられないこれだけの理由」から、いくつかのトピックスを抜き出してみましょう。

じつに曖昧な「成功」の定義

多くの人にとってダイエットの成功とは、体重が大幅に減少し、それが維持されることであるはず。しかし、そうだとしたらダイエットに成功はないと著者は断言しています。なぜなら、私たちが考えるダイエットの「成功」は、ダイエット関連会社のCEOや肥満研究者が考えるそれとは違うから。

ダイエット関連会社のCEOにとっての「成功」とは、「微量でも短期間でも、体重が落ちればいい」ということ。そして肥満研究者にとっては、被験者がダイエットをしていない人とくらべ、少しでも体重を減らせれば成功となるわけです。ほとんどのダイエッターが、最初の数カ月間は体重がたしかに減ることから、「ダイエットに成功はある」と主張しているにすぎないということ。

事実、アメリカで1940年代以降におこなわれた何百という研究の結果、ダイエッターがダイエットを開始して、最初の4〜6カ月間で平均2〜7キロ減少したことがわかっているのだといいます。これは、低カロリーダイエット、低脂質ダイエット、炭水化物抜きダイエットや、その時々に流行っているアイデアなど、どのダイエット法にもいえるそうです。(22ページより)

例外なきダイエットの2大問題とは?

たしかに短期的には体重が減るのであれば、「ダイエットは効果的だ」という主張も厳密には嘘にはならないでしょう。とはいえ「成功した」といい切るには、2つの問題があると著者はいうのです。それは、「ダイエッターたちは十分に減量できていない」ということと、「落ちた体重を維持できていない」ということ。

「なにをもってダイエット成功とするか」は、ダイエットをしている人にとって考えるまでもないことですが、医学界にとってはきわめて難しい問題。たとえば「標準」体重を何キロとするかというだけでも、単純に考えられるようなものではないのだといいます。

現在、世界保健機関(WHO)は、身長を加味した体重、つまり体格指数(またはBMI)をもとに、人々の体重を分類している。

ただし、BMIの採用に関しては、計算式が身長と体重の関係性がまったくわかっていない状態で作られたものである。そのことに加え、脂肪がほとんどついていない筋肉量が多い人が太り過ぎに分類されてしまうことから、さまざまな議論がある。

にもかかわらず、WHOは「標準体重」と「太り過ぎ」とされるBMI値の境界線を25、「太り過ぎ」と「肥満」とされる値の境界線を30と定め、18.5以下は「痩せすぎ」としているのである。(25ページより)

ショッキングな記述ですが、もしもそうであるなら、たしかにそれは信じるに値しないことになってしまいます。(24ページより)

研究者たちは成功基準を低く設定している

そもそもダイエットの目的とは「理想体重」になることであり、これは1940年代以降、病院の診察室にある身長・体重の表から見つけることができたのだそうです。しかし、骨格が大きい女性には、骨格が小さい女性や、骨格が平均的な女性の理想体重よりも重い理想体重が記載されていたのだとか。つまり、同じ身長でも骨格が大きいほど理想体重も重く設定されていて、大半の人は「自分は骨格が大きいほうなのだ」と解釈せずに受け入れることはできないような内容になっていたということ。

最終的には欠陥を指摘されたそうですが、その結果として無効になったこの表によれば、平均身長の女性(165センチ)は、骨格が小さければ53〜59キロ、大きければ62〜70キロが好ましいとされていたというのです。問題は、肥満の人は、この非現実的な理想体重範囲を大幅に超えた体重でダイエットを開始し、ほとんどの場合はその範囲内まで体重を減らせなかったということ。

驚くべきは、その結果、研究者や医師たちが「成功」の定義を18キロ減という簡単に達成できるものに変更したというエピソード。しかし、それでもダイエットをした人たちの95%が成し遂げられなかったため、またもやバーを下げたのだというのです。

それから数十年間、ダイエットは9キロの減量で「成功」と見なされることになったのだといいます。さらに1970年代にはダイエット前の体重に応じた減量目標が設定されるようになり、その後、身長も考慮するようになったのだというのです。

こうして、開始時の体重の10%減でダイエットは成功と見なされることになったということ。しかも、以後もダイエッターが目標達成できないと、またもやバーを下げることに。つまりは、どんどん非現実的な方向に進んでいったということになります。

だとすれば、当のダイエッターがついていけなくなっても当然の話。事実、著者の主張によれば、1940年代に身長・体重の表で理想体重とされた体重に到達した女性も、ダイエット前に自分で設定した「夢の体重」を達成した人もいなかったのだそうです。また、「目標体重」に届いた女性はわずか9%、「許容可能な体重」が24%、「失敗だと感じる体重」が20%という結果に。

つまりダイエットをした女性のほとんどが「失敗だと感じる体重」にすら届かなかったことになるというのです。著者によれば、これが「ダイエットに成功はある」とはいえない1つ目の理由。(25ページより)

一時的な成功——減った体重が維持できない?

そして2つ目の理由が、ダイエッターたちが減った体重を維持できないこと。多くの人にとって、ダイエットの目標とは、一時的に体重を落とすことでも、過酷なダイエットを生涯続けることでもないはず。ところが研究者たちは、おもにダイエット開始後3〜6カ月という、比較駅簡単に体重が落ちる時期に得られる効果にばかり焦点を当て、それ以上に期間にわたる調査をしてこなかったというのです。

ダイエッターたちの体重は落ち続けたのだろうか?

リバウンドは?

減らした以上に体重が増えた人はいた?

ダイエット研究のほとんどが、これらの重要な疑問に関する調査をおこなわなかったのである。(30ページより)

もし、こうした著者の主張に偽りがないのであれば、それはダイエッターにとって大きな衝撃となるはず。「減量するのは短期間だけ」であり、「最終的に減ったのは平均たった1.4キロ」だというような記述を目にすると、少なからず衝撃を受けざるを得ないでしょう。(30ページより)

他にもさまざまな“事実”が明かされており、それらは「ダイエットは体に悪い」「肥満すなわち不健康ではない」という著者の主張の裏づけにもなっています。ただし不安感を煽るだけではなく、独自の「制限作戦」や「運動のメリット」も紹介されています。つまり、読者にはそれらを応用する余地が残されているということ。本当の意味で良好なコンディションを得るために、本書を参考にしてみるのもいいかもしれません。

メディアジーン lifehacker
2017年5月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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