アガサ・クリスティーの大英帝国 東秀紀 著

レビュー

7
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アガサ・クリスティ-の大英帝国

『アガサ・クリスティ-の大英帝国』

著者
東 秀紀 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784480016522
発売日
2017/05/11
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

アガサ・クリスティーの大英帝国 東秀紀 著

[レビュアー] 権田萬治(文芸評論家)

◆観光・田園を切り口に

 本書は、観光と都市の歴史研究の専門家で大のミステリー・ファンでもある著者が、世界的な人気作家アガサ・クリスティーの生涯と大英帝国の盛衰をたどりながら、名作の魅力の源泉を<観光>と<田園・都市>というユニークな切り口で浮き彫りにした見事な評論である。

 ポーの世界初のミステリー「モルグ街の殺人」が発表された一八四一年は英国のトマス・クックが鉄道による団体ツアーを組んだ観光元年でもあったという。

 だが、ポーはパリを舞台に名探偵デュパンを活躍させたが、観光には関心がなく、コナン・ドイルも名探偵ホームズを旅に出してはいるが、もっぱら仕事のためで観光ではないと著者は指摘する。 

 その点、『そして誰もいなくなった』をはじめとするクリスティーの名作は、観光ミステリーと都市近郊の田園を舞台にした作品が多いのが特徴で、それが独特の魅力にもなっていることを、具体的に長篇六十六作をもとに分類し、鮮やかに分析してみせる。

 謎と恐怖を主題とするミステリーの評論研究はともすると、トリックとか意表を突くプロットの分析に偏りがちになるが、著者はそういう点は十分に理解した上で、クリスティーの魅力の全体像を、乱歩のいう<謎以上のもの>の分析を通して教えてくれるのだ。ミステリーへの愛が行間ににじみ出ている好著である。

(筑摩選書・1728円)

<あずま・ひでき> 1951年生まれ。作家・観光史家。著書『ヒトラーの建築家』。

◆もう1冊

 K・ハーカップ著『アガサ・クリスティーと14の毒薬』(長野きよみ訳・岩波書店)。作品で使った毒薬をめぐる話。

中日新聞 東京新聞
2017年6月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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