『お多福来い来い』
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落語に登場の“ダメ人間”に救われる体験をコミックエッセイに
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
落語ファンなら「分かる、分かる」と思いながら読み進めることでしょう。初めて落語に接し、これは自分に合うかもと思い、徐々にハマっていったプロセスを追体験できるからです。そして落語ファンは著者をこう祝福するはずです。「ようこそ私たちの世界へ」と。
「どうせ私なんて何やってもうまくいかないんだ」「私は何もできないダメ人間だし、私なんて顔がオタフクだし」、著者はそんな「ネガティブ思考クイーン」、つまり「自分が大キライ」な人でした。
そんな彼女が落語に出会い、変わっていきます。古典落語の登場人物たちに癒され、共感し、生きづらさを克服していくのです。本欄筆者はその落語の演じ手ですが、私とて生身の人間、ヘコむこともあります。そんな私が落語に救われることがあります。落語に立派な人はまず出てきません。ほとんどがダメ人間です。そのダメ人間の能天気さに、そうだ、適当でいいんだと励まされるのです。
著者もダメ人間たちに励まされたに相違ありません。そのプロセスがコミックエッセイという形で綴られます。演目には江戸落語と上方落語が出てきます。著者が関東で育ち、現在は関西に住んでいるからです。
著者は『ツレがうつになりまして。』で世に知られました。そのツレと息子も本書に登場し、それぞれの落語へのスタンスも読みどころです。ツレは帰国子女で、本書に何本かコラムを書いています。「日本というのは、たいへんに均一な社会で、異質なものを弾き出すところがあるようです」というのが前提で、落語をこう評します。「歌舞伎や文楽の『世話物』は、そういう世界を細かく描いていますが、なんだかとても救いがない。唯一、落語だけが『笑い』によって、その閉鎖的な世界を客観化することに成功しているように思えます」と。
読み終え、タイトルに大いに納得する、とても優しい一冊です。