「ひらめき」じゃなく「発見」、やわらかアタマを生み出す“編集”という最強メソッド

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している

『「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している』

著者
松永光弘 [著]
出版社
インプレス
ISBN
9784295004950
発売日
2018/10/19
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

「ひらめき」じゃなく「発見」、やわらかアタマを生み出す“編集”という最強メソッド

[レビュアー] 足立謙二(ライター)

 文筆家にしろアーティストにしろ映画監督にしろ、一流のクリエイターと呼ばれる人々を、一般の人たちはときに魔法使いを見るかのような目で見ることがあります。「こんな発想、どうして思いつくんだろう?」「やっぱり天才の下には何かが降りてくるんだろうな」などなど。

 別の言い方で「発想が柔軟」「やわらかいアタマ」と呼んだりもするわけですが、では「斬新な発想を生み出すやわらかいアタマ」とは実のところ、どういうアタマなのでしょうか? その正体を教えてくれるのが、『「アタマのやわらかさ」の原理。 クリエイティブな人たちは実は編集している』(松永光弘著/インプレス刊)です。

 著者の松永光弘さんは、広告やデザインをはじめ、おもにクリエイティブをテーマとした書籍の企画にたずさわる編集者として活躍。これまでにクリエイターたちのバイブルと呼ぶべき広告・デザイン本をいくつも手がけてきた方です。

 クリエイターの仕事とは、文字通り創作物を生み出すこと。映画や小説、絵画に限らず、新たなビジネスプランや新商品を発案するのも含め、誰もが気づかなかった何らかのブツを提示することが、共通した命題と言えます。

 そのために彼らは、ただ腕を組んでウンウンうなりながらアイデアをひねり出そうとしているわけではありません。

 松永さんは、「思いつき」や「ひらめき」から何かが生まれるのではなく、常識にとらわれない目で「発見する」のがクリエイターの作業だと指摘します。既成概念から外れた別の視点からとらえ直すことで、彼らは新たな価値を発見し続けているのだというわけです。

 では、「発見する」ことが「やわらかいアタマ」とどう結びつくのか。一つのものごとに対して別の要素を組み合わせて、「こうではないか? こうも考えられないか?」と、とっかえひっかえ何度も考え直して「発見」にたどり着いていくことが、アタマをやわらかくしていくのだと、松永さんは言っています。

 例えば「コーヒー」。普通に思い浮かぶのは「飲み物」「苦い」「黒い液体」「眠気覚まし」などですが、「コーヒーって、“人と人の距離を近づけるもの”ですよね」と考える人もいます。また、「子供は甘い飲み物が好き」という別の概念からひっくり返して「苦いコーヒーを飲むのは子供を卒業した証」という「発見」が導き出せる。このようにいくつもの視点を組み合わせて「発見」できたものがアイデアの元となって、世に新しい価値を提示することになるというわけです。

 言ってしまえば、クリエイターのアタマがやわらかいのは、やわらかくするための作業をひたすらやってきている仕事だからということなのでしょう。もちろん、生まれつき感覚的に優れている“真の天才”という人は存在するのでしょうし、心当たりもありますが、やわらかくする作業の数が多い人ほど、優秀なクリエイターであることに違いありません。

 ただ、実際にクリエイターたちがよく口にするのは「〇〇の立場で考えれば」「このあいだ、〇〇しているときに思いついたんだ」という程度の、わりとうっすらした意識の中で、発見の作業を日常化させているのだと松永さんは言っています。

 そんな、アタマをやわらかくしていく作業を、松永さんは「編集」という言葉で表現しています。この「編集」の本質を知ることが本書のポイントです。

 松永さんが言う「編集」とは、出版業界や映像製作の用語という意味ではありません。何か一つのものごとに手を加えて、新たな価値をまとったものにかえること。アレンジという言い方もできますが、例えば1枚の写真に付け加える説明文一つ、もしくはドラマのあるシーンで背景に流すBGM一つ違うだけで見ている写真や映像は全く違う意味を持つことになる。これが編集の技であり、先に触れた組み合わせを変えることで違う価値を生み出すということです。

 松永さんは、編集の力をより有効に役立てるには、常日頃様々な物事に触れ、本を読み、映像作品を見るなど、視点のタネを蓄積して、いざというときに引き出せるよう備えておくことが大切だと言っています。

「編集」とは、プロのクリエイターの現場に限らず、日常のどこにでも適応できる、普遍的で誰でも試せる、それでいて大変強力なメソッドだということが、この一冊を通じて理解することができるでしょう。

 その意味で、本書は、専門のクリエイターを目指す方だけでなく、様々な企画に携わるビジネスパーソンたちにとってもぜひ読んでいただきたい一冊です。

インプレス
2018年12月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

インプレス

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク