桁違いの大金持ちたちの資産運用を赤裸々に明かす

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  • アンダーグラウンド・マーケット
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桁違いの大金持ちたちの資産運用を赤裸々に明かす

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 プライベートバンカーとは、富裕層の資産を預かって運用する、投資のプロフェッショナル。あるときは“カネの傭兵”またあるときは“マネーの執事”と呼ばれる。とんでもない大金持ちを顧客とする、常識外のその世界を赤裸々かつスリリングに描くのが、清武英利のノンフィクション『プライベートバンカー』

 副題の“節税攻防都市”とは、オフショア(課税優遇地)政策のおかげで新富裕層が大挙して流れ込んできた“ニューマネーの国”、シンガポールのこと。実名で描かれる主人公は、野村證券のトップセールスマンから転身した凄腕プライベートバンカー、杉山智一。

 2010年5月2日の深夜、杉山はシンガポール・チャンギ空港に降り立つ。新たな勤務先はシンガポール銀行のジャパンデスク(日本人顧客向け窓口)。採用条件は、1年以内に1億ドルの運用資産を集め、100万ドルの収益を上げること……。作中には、日本の相続税を逃れるため1年の半分をシンガポールで暮らし、ただただ時が過ぎるのを待つ資産家や、かつて“六本木筋”と異名をとった先物相場師、グラビアアイドルの山本梓と結婚して話題になったIT長者、さらには国税庁からの“長期出張者”として脱税に目を光らせる調査官など、個性的な人物が続々登場。最後はカネを巡る詐欺と殺人未遂事件までもが浮上し、ページをめくる手が止まらない。“完結版”と銘打つこの文庫版には、事件の“その後”を明かす新章が追加されている。

 残る2冊は、同じ経済方面のフィクションから。藤井太洋『アンダーグラウンド・マーケット』(朝日文庫)は、移民の急増とともにデジタル仮想通貨が浸透したもうひとつの2018年東京を描く、まったく新しいタイプの仮想的ビジネス小説。対する城山真一『ブラック・ヴィーナス』(宝島社文庫)は、2015年の『このミス』大賞受賞作。“黒女神”と呼ばれる天才的な株トレーダー・二礼茜を軸に、経済版『ドクターX』みたいな痛快サスペンスを展開する。続編の『仕掛ける』も出ている。

新潮社 週刊新潮
2018年12月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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