自分が好きな海外ミュージシャンを日本に呼んだらビジネスになった “呼び屋”トムス・キャビン麻田浩×ピーター・バラカン対談

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聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事

『聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事』

著者
麻田浩 [著]/奥和宏 [著]
出版社
リットーミュージック
ISBN
9784845632633
発売日
2019/01/18
価格
2,420円(税込)

自分が好きな海外ミュージシャンを日本に呼んだらビジネスになった “呼び屋”トムス・キャビン麻田浩×ピーター・バラカン対談

[文] 奥和宏(ライター)

ピーター・バラカンさん
ピーター・バラカンさん

若い時の7歳の違いは大きい?

バラカン 僕が日本に来たのは、シンコー・ミュージックのいわゆるサブ・パブリシング……海外の著作権を取得する業務のためだった。僕がどういう仕事をしていたかというと、主に海外の出版社との手紙のやり取りだったんです。シンコーは海外の著作権をたくさん持ってたから、いろんな出版社との手紙のやり取りが毎日かなりあったんです。それで英語で手紙が書ける人間が必要だから、イギリスで僕を雇ったというわけ。

麻田 僕はバラカンが日本に来てすぐに会ってたはず。シンコー・ミュージックで、ちらっとそういう洋楽の話をしたことは覚えてる。

バラカン 音楽の嗜好はだいたい合いますよね。たぶん僕より麻田さんのほうが多少広いかもしれない。

麻田 そうかな? 僕はピーターよりどれくらい上なんだろう? 僕は44年生まれなんだけど。

バラカン ああ、じゃあけっこう違うんだ。僕は51年生まれだから7歳違い。それは大きいんですよ、意外に。いまはそうでもないけれど、若いときの7歳差は大きいんです。エルヴィス・プレスリーはリアルタイムで聴いていました?

麻田 そこまでリアルタイムじゃないんだけど、ラジオではかかってたね。その頃はFENを毎日のように聴いてたから。

バラカン 44年生まれってことは、国内で洋楽のカバーをやってた人たちにしても、かなり早くにリアルタイムに聴いているはずだから、感覚がそのぶん早熟っていうか、詳しくなるのが早いんですよね。麻田さんと僕の間ぐらいの年齢の女性と日本に来てから仲良くなったんだけど、昔の音楽の話で面白かったことがあったんですよ。僕はストーンズが大好きなんですね。ストーンズがデビューしたのは僕が12歳のときだから、もろにその影響を受けるような年だったけど、彼女はね、ローリング・ストーンズはつまんないっていうわけ。なぜかというと、彼らがコピーしていた音楽をリアルタイムで聴いてたから。

麻田 そうそう。僕なんかもまったく同じですよ。

バラカン しかも最初はわりとヘタじゃないですか。でもそのルーツを知らない子は、それでよかったんですよ(笑)。

麻田 僕の場合は、ビートルズはほんとに「なんだこんなのチャック・ベリーのコピーじゃないの」って思っちゃったから。それがすごく間違いだった(笑)。

バラカン でも誰でも、とくに若いときは、自分の体験でものを判断するからね。僕は子供のときから、いわゆるブリティッシュ・インヴェイジョンの時代でも、好きなレコードと嫌いなレコードがはっきり分かれていて、なんかこう、ヒット狙いっていうか、計算されたような子供だましっぽいヤツが全然だめだったんですよ。12、13歳の頃から。この感覚はなんなのかよくわかんない。特別知識があったわけじゃないからね。でもすごい好き嫌いがあって、クリスマス・プレゼントで親戚から嫌いなミュージシャンのシングル盤もらって、翌日にそれをレコード屋さんに持ってって、「頼むから交換して」ってやったことがあります(笑)。

麻田 僕はそこまで好き嫌いはないと思うけど、節操がないんだよね(笑)。ただ、自分が聴きたい音楽っていうのが根底にあるから、それで気に入らないのは呼ばないけど……。

バラカン  少なくともライヴ・マジックではね、自分が個人的には好きじゃないけど、まあ売れそうだからやろう……って仮に決めたとしても、それを宣伝しなきゃいけないのは僕だから。自分で気持ちの入ってないものを他人に「いいですよ」なんて言っても、たぶん顔に出るからだめですよ(笑)。やっぱり自分が好きなものじゃないと力が入らない。

麻田 そうかもしれないね。

バラカン 小規模でやってると、とにかく全部自分でやるでしょ?

麻田 そうなんだよね。どうしても、自分がやりたいもの、自分が聴きたいものになっちゃう。それと僕はSXSWに行ってるから、毎年まったく無名の人をいっぱい観たり聴いたりするんですよ。まず今年の出演者を見て、ざーっと聴いてみて、面白いなと思ったら観に行く。そういうのはやっぱり、なんていうか、自分の好き嫌いですね(笑)。

バラカン まあ要するに、自分の何かにこう引っかかるっていう……。

麻田 そうそうそう。だから引っかかってるのにやれなかったのは、ほんとにくやしい。J・J・ケールも、最後の彼のツアーに行って「ぜひ日本に」って言ったら、「日本か、遠いからな……」ってひとことで返されちゃった(笑)。

バラカン 意外にそう思ってるアーティストって多いんだよね。ギリアン・ウェルチなんかもそうだし、アリソン・クラウスなんかもそうだし。遠出をしたがらないっていうミュージシャンはけっこういますよ。

麻田 あとは何と言ってもヴァン・モリソン。彼もほんとに長い飛行機に乗らないみたいで、来てくれない。最近ハワイまで来てるのにね。4時間でしょ? ロスからハワイまでは。
バラカン あの人いまはイギリスにいるからね。まずアメリカまで行って、それから……。

麻田 アメリカでツアーやって、サンフランシスコかロザンゼルスからハワイまで行ってるんだよね。

バラカン あんまり日本に興味ないんじゃないかな? たぶん。興味あれば来てるはずだから。

尽きることがない二人の音楽談義。後編では、ピーターさんが主催するライヴ・マジックの裏側、その他の国内外のフェス事情、いま二人が感じている音楽ビジネスの行方など、さらにディープな話題でお届けしよう。

撮影:TAK岡見

リットーミュージック
2019年3月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

リットーミュージック

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