詩的な言葉で語られる経済と世界の本質

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父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』

著者
ヤニス・バルファキス [著]/関 美和 [訳]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784478105511
発売日
2019/03/08
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

詩的な言葉で語られる経済と世界の本質

[レビュアー] 田中大輔(某社書店営業)

 ギリシャの元財務大臣が十代の娘に語りかける形で、専門用語を使わずに経済と世界の本質について語った本の売行きが好調だ。発売から1カ月以上が経過し、アマゾンの経済学ランキングで1位を取るなど売上を順調に伸ばしている。

 娘からの「どうして世の中にはこんなに格差があるの?」という問いに対し、著者なりの答えを出すために、経済がどのように生まれたのか?に始まり、資本主義、金融、労働力、マネーについて、ゲーテの『ファウスト』やソポクレスの『オイディプス王』などの古典、『マトリックス』『ブレードランナー』といったSF映画を例にしながら説明している。

 例えば、銀行が貸し出すお金はどこから見つけてくるのだろう?という問いには「預金者が預けたおカネ」では不正解だ。答えは「どこからともなく。魔法のようにパッと出す」である、という興味を引く答え方をしている。この答えが嘘でないことは本書を読み進めていくうちにわかるだろう。また経済の誕生については、農産物の生産によって、はじめて本物の経済の基本になる要素が生まれた。それが「余剰」だ。「農作物の余剰が、人類を永遠に変えるような、偉大な制度を生み出したということ。それが、文字、債務、通貨、国家、官僚制、軍隊、宗教といったものだ。テクノロジーも、最初の生物化学兵器を使った戦争もまた、もとをたどると余剰から生まれている」。このように、わかりやすく、詩的と言ってもいい文体で書かれているため、スラスラと一気に最後まで読めてしまう。

 誰もが経済についてしっかりと意見を言えることこそ、いい社会の必須条件であり、真の民主主義の前提条件だと著者は言う。また専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断をすべて他人にまかせてしまうことにほかならないとも言う。本書を読めば、経済と政治は不可分だとわかるはずだ。政治や経済なんて自分には関係ないと思っている人が日本には多い。だが、それらに無関心でいることが自分の幸福にどう影響してくるか、本書を読みながらよく考えていただきたい。

新潮社 週刊新潮
2019年5月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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