アメリカ人料理家が日本で苦手な「魚料理」を克服するまで

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サカナ・レッスン

『サカナ・レッスン』

著者
キャスリーン・フリン [著]/村井理子 [訳]
出版社
CCCメディアハウス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784484192147
発売日
2019/06/01
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

米料理家が日本の「魚」に挑戦 異文化料理で蘇った意外な記憶

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 フランスの料理学校ル・コルドン・ブルーでの経験を『36歳、名門料理学校に飛び込む!』(柏書房)で著したキャスリーン・フリンはアメリカに帰国後、料理家、ジャーナリストとして活動していた。料理の苦手な女性たちを指導したドキュメント『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(きこ書房)が日本で大ヒット。2017年には『世界一受けたい授業』でテレビ出演も果たす。

 その後、翻訳書を担当した編集者と翻訳者から、日本の読者向けに魚料理について書いてみないかと提案を受けた。日本でも、魚料理を苦手としている家庭調理人が多いというのだ。キャスリーン自身、魚を前にすると、正直少し怖いと思っている。

 それならば苦手を克服しようと学ぶことを決意。時は2018年10月。築地市場が豊洲に移転するタイミングだ。それも全部見てみよう。

 スケジュールはハードだった。時差ボケの早朝、小ぶりのサバをさばくことからスタートだ。講師は寿司をぴったり27グラムに握れる寿司職人の村上文将氏。彼の指導のもと、何十匹もの魚をさばき、だしの取り方を覚え、寿司の握り方、何種もの魚料理を覚える。料理家の彼女にとって新鮮な経験だった。

 だが苦痛は実際に寿司を食べることに潜んでいた。このあたり、異国の料理で同じ思いをした日本人も多いだろう。

 その後、日本の家庭料理に感激したキャスリーンは、帰国後日本の食事情を反芻し、魚料理を復習する。

 すると彼女の脳裏に浮かんだのは、亡くなった父親の思い出だった。異文化料理を体得したいと思った彼女が手にしたものが、幼いころの家族の思い出というのは皮肉なことだ。

 日本で学んだのは「ひと呼吸」。いったん動きを止めて落ち着くことで、料理も人生も変わってくる。魚料理が苦手な日本人に役に立つレシピも紹介されている。またひとつ、彼女から教えてもらった。

新潮社 週刊新潮
2019年7月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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