<東北の本棚>闘病の息子命見つめる
[レビュアー] 河北新報
わが子が余命宣告を受けた。冷酷な現実を見つめ、信州大准教授で臨床心理士の著者が長男の闘病記を出した。「生きろ」。母の必死の叫びが伝わってくる。
著者は東北大大学院博士後期課程を修了。在学中に長男の拓野さん(36)を出産した。ダウン症で知的障害がある拓野さんは2016年1月、極めてまれな血液のがん「形質細胞性白血病」と診断された。多発性骨髄腫の一種で、今年1月、余命を「1年くらい」と宣告される。
本書は3部構成。1部は治療や再発の経過を、日本画家中畝治子さんのイラストとともにつづり、母としての悩みや混乱を明かす。形質細胞性白血病は国内の症例報告が12年間でわずか38例。標準治療がなく、拓野さんに代わって治療の選択を迫られる著者は「家族の死生観が問われている」と受け止める。
2部は、拓野さんを励まそうと18年9月に東京で開かれた「トーク&ミニコンサート」を紹介。主治医や看護師が病気の特徴や治療法、ダウン症の患者との関わり方について話した内容を記録し、読者の理解を助ける。「看護師さんの手を握り、『俺の命を預けるからよろしく』と誰彼構わず言いまくる」といったエピソードも語られ、拓野さんの明るい人柄が伝わる。
著者が配った資料も掲載し、知的障害者のがん闘病の課題を挙げる。自宅療養では免疫機能が落ちた拓野さんを常に見守る必要があるが、行政サービスに限りがあり、著者の勤務中は自費でヘルパーを依頼せざるを得ないという。
3部は信濃毎日新聞で連載した子育てエッセーに、闘病に関する番外編を加筆。障害児の親として「親亡き後」を常に考えてきたのに、「拓野のいない世界」を考える理不尽さを訴える。ほかに成人T細胞白血病の治療で骨髄移植を受けた浅野史郎前宮城県知事が寄稿。息子の闘病に伴走する著者に温かなメッセージを送る。
生活書院03(3226)1203=1404円。