『企業と経済を読み解く小説50』
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経済事件を小説で 炙り出す熟練の技
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
リアルな経済の動きを小説で理解できるのが『企業と経済を読み解く小説50』。佐高信の「経済小説」への期待は大きい。実際に本書を読むと、戦後から現在までの重要な経済事件を知ることができる。
佐川疑獄、原発問題、大企業の合併や消滅など、選ばれた50冊の小説という虚構から著者は現実の「人」と「企業」のどろどろした関係を炙り出す。ブラック企業や多重債務問題など私たちに身近なテーマを扱う作品も選ばれている。
長年、経済小説の世界を解説してきた熟練の技を見ることができる。特にほぼ全作品で言及される、著者が実際に見聞した小説のモデルたちとの出会いと、それに基づく評価は彼の独壇場だ。辛辣なものもあるが、経済小説の世界を読者にとってより身近なものにすることに成功している。
他方で、経済を理解するという観点からすると物足りなさはある。例えば、リーマンショック以降、日本を含む世界の経済は、緊縮政策か反緊縮政策かを巡って市民を巻き込んだ論争が盛んだ。コロナ禍の状況はその経済政策での対立をさらに加速させている。
だが、本書では経済全体の政策を担う日本銀行や財務省(旧大蔵省)の話題は出てきても、あくまで小説のモデルと所属する組織との軋轢などを描くことに比重が置かれている。
政策の評価よりもモデルとなった具体的人物にあまりに焦点を置きすぎるところが、本書の魅力でもあり、また弱点でもある。