『オレンジ色の世界』
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『オレンジ色の世界』カレン・ラッセル著(河出書房新社)
[レビュアー] 辛島デイヴィッド(作家・翻訳家・早稲田大教授)
沼地で見つけたミイラと「恋」に落ちる青年。砂漠でジョシュアツリーの魂に取り憑(つ)かれ奇妙な三角関係に巻き込まれる女性。大恐慌時代に山頂の幽霊屋敷に迷い込む若き探鉱者たち。
幻想的に再創造された歴史的舞台で奮闘する主人公たちの行動に一喜一憂してしまうのは、そこに誰もが日常生活の中で経験するような危険や不安が描かれているからだろう。
子供の視点で書くのも得意な著者だが、三冊目の短編集となる本作では、子を思う親の不安にも焦点が当てられる。幼い子供の健康と安全を望む母親は悪魔と取引を交わし、竜巻を育てる危険な仕事に没頭する父親は、自らの存在が「常に我が家族にとって最大の危険だった」ことを悟る。
幽霊、ミイラ、ゾンビなどが多く登場するが、あまり恐ろしい存在としては描かれない。主人公たちが戦っている相手は、あくまでも「内なる(悪)魔」だからだ。
夏休みに異世界に旅し、自分を見つめ直したいという方には、訳者の小説家・松田青子の短編集『おばちゃんたちのいるところ』(中公文庫)と合わせてお薦めしたい。