『ジェンダー平等を実現する法と政治 フランスのパリテ法から学ぶ日本の課題』辻村みよ子/齊藤笑美子著(花伝社)/『議員の両性同数 パリテの現在地』レジャーヌ・セナック著(白水社)

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ジェンダー平等を実現する法と政治

『ジェンダー平等を実現する法と政治』

著者
辻村 みよ子 [著]/齊藤 笑美子 [著]
出版社
花伝社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784763420589
発売日
2023/04/21
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

議員の両性同数

『議員の両性同数』

著者
レジャーヌ・セナック [著]/斎藤 かぐみ [訳]
出版社
白水社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784560510582
発売日
2023/04/28
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ジェンダー平等を実現する法と政治 フランスのパリテ法から学ぶ日本の課題』辻村みよ子/齊藤笑美子著(花伝社)/『議員の両性同数 パリテの現在地』レジャーヌ・セナック著(白水社)

[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)

女性参画 フランスの決断

 ここ30年ほどでフランスのジェンダー政策は急速に進展した。女性参政権獲得は1944年と遅く、国会議員(下院)の女性比率も93年には5.9%だったが、2022年には37.3%と小選挙区制の国ではトップに。13年に同性婚が合法化され、22年のジェンダーギャップ指数は146ヶ国中15位。日本は116位だ。転機は00年、議員を両性同数にすることを定めたパリテ(同数)法の成立だ。地域圏議会などの比例代表制選挙では候補者名簿への両性同数登載が義務づけられ、小選挙区制選挙では候補者性別比に応じて政党に交付金減額のペナルティーが課される。

 かつてフランスといえば、普遍主義を旨とする「一にして不可分の共和国」で、多文化主義の英米とは対照的と考えられていた。公私を截然(せつぜん)と区別し、公的領域に個人の出自や属性は無関係とみなし、よって属性による格差の是正、いわゆるポジティブ・アクションは行わないと。ところがいまや、パリテというポジティブ・アクションでフランスは世界をリードしている。いったい何があったのか。

 憲法学者による『ジェンダー平等~』はこの疑問に応えてくれる。同書はパリテ法成立に至る歴史をオランプ・ドゥ・グージュから辿(たど)る。1791年に「女性の権利宣言」を著したグージュはフランス人権宣言の「人権」が男性・白人・ブルジョアの権利にすぎないことを喝破した。パリテ法はそのような抽象的な「近代的人権」から具体的な「現代的人権」への移行の反映と理解できる。しかし、憲法には抽象的な普遍主義、つまり「政治に性別は無関係」という思想が刻み込まれていたため、パリテ成立には憲法改正が必要だった。市町村議会でのクオータ制導入に違憲判決が出、1999年に憲法改正が行われて初めてパリテ法は成立した。

 『議員の両性同数』(斎藤かぐみ訳)は諸国のクオータ制の取り組みを多数挙げた上でフランスのパリテに焦点を絞り、その成立経緯や効果を厳密に検証する。ほぼ一貫して両性が「女男」と表記されるのも新鮮だ。

読売新聞
2023年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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