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あのベストセラーSFの新版、泣けるSFオールタイムベスト1と日本で一番売れたSFは?
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
創元SF文庫から、ジェイムズ・P・ホーガン《巨人たちの星》シリーズの新版が続々刊行されている。
第1作『星を継ぐもの』(池央耿訳)は、本国以上に日本で人気が高い翻訳小説の典型。1941年英国生まれの著者が77年に米国で刊行したデビュー長編だが、80年に邦訳されると人気沸騰。以来40年愛され続け、増刷を重ねて104刷。創元SF文庫史上最大のヒット作となり、この7月、ついに新版にリニューアルされた。
物語は、月面で真紅の宇宙服を着た遺体が見つかるところから始まる。炭素年代測定の結果、遺体は死後5万年と判明。だが、主人公格の生物学者ダンチェッカーは、“彼”が地球生まれの人類にまちがいないと断言する。一方、木星の衛星ガニメデでは、地球外文明の宇宙船の残骸が発見された。謎が謎を呼び、白熱した議論の中から、やがて予想外の仮説が……。
驚天動地の謎解きは、ミステリ読者にも大ウケした。発表当時でさえ、現代SFにしては古典的な道具立てだったが、その点は劉慈欣『三体』とも共通する。むしろその古めかしさがヒットの秘密かもしれない。
しかし、部数でそれを上回るヒット作が、日本で連続ドラマ化されたこともあるダニエル・キイス永遠の名作『アルジャーノンに花束を』(小尾芙佐訳、ハヤカワ文庫NV)。78年に邦訳されたこの長編版は国内累計の発行部数が340万部を突破。今春は、TikTokの紹介動画から人気が再爆発し、短期間に3万部が増刷された。主人公は32歳になっても幼児並みの知能しかないチャーリイ・ゴードン。頭がよくなる実験に参加した彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手にテストを受け、処置を経て徐々に知能が向上していくが……。泣けるSFオールタイムベスト1。
では、日本のSFでいちばん売れたのは? 答えは、小松左京『日本沈没』(角川文庫ほか)で決まり。73年の初刊から半世紀、上下巻を合計した累計発行部数は490万部以上。日本SFの頂点に輝くロングセラーだ。