トミヤマユキコ「たすけて! 女子マンガ」
2016/07/19

自由で無敵な“新しい女”たち「はいからさん」「月野うさぎ」(「おもしろい女」その3)

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  マンガに女の人生を教えてもらおう! をテーマに文芸誌『yomyom』で連載中のトミヤマユキコさん「たすけて! 女子マンガ」。今回のテーマは「おもしろい女」です。女のおもしろさを「無意識系」と「自意識系」のふたつに分類し、「無意識系」の筆頭に『のだめカンタービレ』ののだめをあげたトミヤマさん。そのキャラクターには、自由で無敵な存在として描かれてきた“新しい女”の系譜があるといいます。

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 無意識系のおもしろい女の大先輩として忘れちゃいけないのが、大和和紀『はいからさんが通る』の主人公「紅緒」だ。彼女をプロトタイプと考えると、女子マンガにおける無意識系の系譜がかなりクリアになる。

 紅緒は、おてんばで酒豪。良妻賢母教育を推進する女学校に通っているけれど、なりたいのはお嫁さんではなく、進歩的な「新しい女」(©平塚らいてう)であり、お裁縫の宿題ひとつまともにできない。かなり男勝りで、剣道の稽古では幼馴染みの歌舞伎役者「蘭丸」をガンガンに痛めつけ、かと思えば、例のはいからさんスタイルで自転車に乗り、思い切りコケる。こんなエピソードばかり続くのに、女らしくないとか言われると、凹んだり怒ったりする。ほら、どう考えても無意識系。

 そんな彼女は、祖父母の代から結婚することが決まっている「伊集院忍」の家に行き、花嫁修業をはじめるが、まるでやる気がない。むしろ、彼女の親友で忍に片想いし続ける「環」を思って、出来の悪い嫁を演じようとさえする。

 大正期の女としてはあり得ないほど自由な紅緒に対し、忍はあんまり自由じゃなさそうだ。決められたレールの上を進むように陸軍少尉となり、祖父母が決めた相手との結婚も素直に受け入れている(むしろ祖父母孝行になると思っている)。

 でも、彼の奥底には、自由を求める心がある。だからこそ「まともな女」や「いい嫁」の範疇から大きく外れている紅緒を、忍は大切にし、期待をかける。「ぼくはね…… きみが この家に新しい風をいれてくれる人だと信じてるんですよ」……彼は、古いしきたりに縛られた伊集院家を救ってくれるのは、紅緒しかいないと思っている。のちに登場する出版社社長「冬星」も、息子に家業を継がせようとする母親の束縛がイヤで、何度も衝突する一方、紅緒の天衣無縫ぶりに惚れ込んでいる。名門に産まれたがゆえの不自由を噛みしめる男たちは、見た目こそカッコいいが、いかんともしがたい弱さを抱えた存在でもあるのだ。

 こうしたエリート男子にとって、規格外のおもしろさを持った女は、まさしく救世主。紅緒は「おもしろい女で何が悪い?」とばかりに、硬直化した家制度や男社会に風穴を開けるのであり、その意味でおもしろい女というのは、いつの時代もかなり頼りにされてきたのだなと思わずにはいられない。千秋だって、山根だって、バリバリのエリートだけれど、おもしろい女に救いを求め、ヒーロー視していたではないか。

 バカなのに、笑われてるのに、頼もしい女。奇行・愚行の数々で過去の因習をぶっ壊し、新しい風を呼び込むトリックスターは、本当に無敵だ。

 無敵といえば、武内直子『美少女戦士セーラームーン』の「うさぎ」も、完全なる無意識系だった。戦闘時こそ頼れるセーラー服美少女戦士・セーラームーンだけれど、普段はまったく勉強のできないゲーセン大好き少女。数多ある女子マンガの中でも、無意識系のおもしろさをキープしながら最も強くなったのは、うさぎなのではないだろうか。そして彼女の夫となるタキシード仮面は、おバカな彼女も勇ましい彼女も丸ごと愛せる男として描かれている。自分をはるかに抜き去るスピードで強くなってゆくうさぎの足手まといになることを嫌がり、彼女が全力を賭して戦えるよう後方支援にまわる彼もまた、おもしろい女をヒーロー視するエリート男子だ。

《「おもしろい女」その4につづく》

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